ハーバード・ビジネス・レビューでは、毎月、講師をお迎えして勉強会を開催している。著名な講師を囲み、少人数によるディスカッションを中心とした勉強会は、議論の濃さと活気で好評だ。今回は京都大学 客員准教授の瀧本哲史氏を講師に迎え、「人を動かす力」というテーマで、プレゼンテーションを行っていただいた。 

【テーマ】人を動かす力
【 講師 】瀧本 哲史氏(京都大学 客員准教授)
【 日時 】2013年12月18日(水) 19時~20時30分
【 場所 】d-labo コミュニケーションスペース(ミッドタウン・タワー7階)

 

DHBR勉強会について

 ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)では、毎月1度、講師をお迎えして勉強会を開催しています。この勉強会は、DHBR誌に寄稿いただいた方を講師としてお招きし、執筆テーマに沿ったプレゼンテーションの後、参加者の方々とディスカッションを行う形式をとっています。アットホームな会場、20名という少人数、隔たりのない講師の方との近さという贅沢な空間が、ほかにはない活発な議論を誘い、これまで参加いただいた方々からも好評をいただいております。また、参加者の年齢や職種も幅広い層にまたがっており、大変刺激的な会となっています。
 

影響力を持っている人を見抜く

 だれに対しても普遍的な影響力を与えることはできません、と瀧本氏は口火を切りました。ネットワークやコミュニティは説得のしやすさと密接な関わりがありますが、実は影響力を与えやすい人を選ぶということが一番重要なのです。
 たとえば、上司に対して働きかけるのであれば、その上司を直接説得しなければならないとは限りません。本当に影響力を持っている人と権力を持っている人は違うことがあります。ですから、「将を射んとすれば、まずその馬を射よ」の諺通り、真に組織に影響力を持っている人を見抜き、その人の「非公式な」ネットワークを利用して説得を行うのが、最も効果的な方法なのです。

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瀧本 哲史(たきもと・てつふみ)
 京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門客員准教授。エンジェル投資家。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーで、おもにエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事。内外の半導体、通信、エレクトロニクスメーカーの新規事業立ち上げ、投資プログラムの策定を行う。独立後は「日本交通」の再建に携わり、エンジェル投資家として活動しながら、京都大学で教育、研究、産官学連携活動を行っている。


 具体例として、あるIT機器の販売会社の再建に関わった時のエピソードをご披露いただきました。業績改善のための素晴らしいマーケティング・プログラムが用意されましたが、こうしたプログラムは実行されなければまったく意味のないものです。そこで瀧本氏は、担当した営業所のメンバーに対して、プログラムに取り組むよう説得することだけにフォーカスしたそうです。
 その際、どの人をどういう順番で説得すればよいかということが問題でした。まず反対勢力をつくらないように、成績のよい人は放置することにしました。口出しして、反感を買うのを避けるためです。次に、与えられた商圏は決してよくないにも関わらずコンスタントに売上を上げているAさんがいたので、この人をモデルとして、そのやり方を分析して水平展開することを決めました。そのため、Aさんと仲良くなることを最初のステップとしました。続いて、本社から派遣された幹部候補であるがノルマの半分以下しか達成できていないBさんにAさんのやり方をさせて成績を向上させれば、自分の方法が正しいことが証明できると考え、Bさんの説得に注力することにしました。そして見事、その目的を達成することができたのです。
 一方で、最初に接触しなかったうちの一人である大ベテランのCさんはどこかで味方につけようと思っていました。Cさんは売上こそキープしていたものの、本社から新しいプロダクト・ラインを売れ、という指示に応えられていませんでした。そこで粘り強く説得して営業に同行させてもらい、その場で私が新しいプロダクト・ラインの見積もり依頼を取ることに成功したところ、Cさんからの信頼を一気に得ることができたのです。こうして3人のキーパーソンの支持を得たことで、営業所全員の信頼を得られました。ネットワーク内のだれを味方につけるかが大事なのは、こうした効果が得られるためです。波及効果の大きい人を説得できれば、それ以外の人には下手に関わる必要はないのです。