タイの奥地でも商品を売るユニ・チャーム

 バンコク以外にも人里離れたリゾート地も訪れました。ここクラビは陸の孤島で、海外の観光客向けのリゾートホテル以外ほとんどなにもなく、ここで暮らす人はわずかで、ほぼ観光客向けの仕事に従事しています。当然セブンイレブンもなく、かろうじてあるよろず屋に日用品が一通り揃っています。このよろず屋に置かれている商品はほとんどタイメーカーのもので、外資ではネスレの「ネスカフェ」や「キットカット」、「コルゲート」などわずかでした。

 ここで目にした唯一の日本メーカーは、ユニ・チャームの生理用品です。商品名は日本で見かけるものとは異なるようですが、価格は8個入りで20バーツ。日本円で約60円ですが、これは購買力平価で考えても約150円ですので、一般のタイ人にも購入できる価格です。クラビは陸の孤島ですので、水や食料もすべてボートで運んできます。条件も厳しいこの地で、商品を流通させしかも現地価格で販売しているユニ・チャームの強さは相当なものでしょう。製品開発力や生産技術、さらに物流システムまで完備しないとこのビジネスモデルは成立しない。時間をかけて培ったノウハウの結晶を見た思いでした。

 いまの日本企業にとって新興国への進出が大きな課題です。1980年代までの欧米諸国への進出では安い賃金と高い品質を武器に、多くの日本企業はグローバル化に成功しました。しかしいまや先進国から新興国へ。世界的に見て賃金水準が高い日本企業が、新興国に進出するのは従来の発想とはまるで違います。

 タイで考えたのは、新興国進出にはスターバックス型展開とユニ・チャーム型展開の2通りある、ということです。

 先進国の顧客体験をそのまま新興国で展開するスターバックス。これがグローバル化のひとつのやり方で、世界のどこででも同じ価値を提供するオペレーションは見事です。バンコクで見たZARAやGAPも同様の展開と感じました。

 一方で、新興国のニーズに徹底的に合わせるユニ・チャーム。ネスレやコルゲートも同様です。商品機能のみならず現地の価格で利益を出すモデルを組み立てる必要がなるでしょう。従来の日本企業は新興国進出に際し、ハイエンド層向けを得意とし、ミドルレンジやローエンド層の顧客向け展開を苦手としていました。新興国で急成長するこれらの層を取り込むユニ・チャームの戦略は、今後の大きな選択肢の1つとなります。

 本日発売の弊誌最新号は「日本企業は新興市場で勝てるか」をテーマに特集しました。その中でユニ・チャームの高原豪久社長にインタビューしています(なので、タイでユニ・チャームの商品に目が行きました)。新興国で成功するために必要な、徹底的な実行力の一端をお読みいただければ幸いです。(編集長・岩佐文夫)