中国の抱える巨大なマーケットは、なにも都市部に限らない。農村部はいまだに多くが貧困地域であるものの、その生活水準は目覚ましく向上している。世界的経営コンサルティング会社BCGが新興国の消費者に直接インタビューをし、その消費マインドを描いた『世界を動かす消費者たち』の発刊を記念し、新興国の消費市場を読み解くヒントを提示する。
2013年3月の退任を控えた温家宝首相(当時)は指導部に、膨大な人口にのぼる農村部住民のニーズや欲求を無視した都市化政策を推し進めることのないよう要請した。ウォールストリート・ジャーナルによれば、温首相は、中国が「一貫して科学的原理を適用し、目標とする政策を堅実に推進し、農村部の近代化と新農村建設とをうまく調和させること」がいかに重要かを理解していた。彼はまた、中国は「農村部の産業や農村部住民の利害を犠牲にはできない」とも語った。温首相は、農業税の廃止などの政策を通じて多くの農村部住民を貧困から救い出した功績で広く評価を得ている。
確かに中国農村部には、いまだに貧困地域が大きく広がっている。それでも、多くの農村地帯は過去20年間にわたり紛れもなく急進的な改革を経験してきた。1980年代、および90年代前半も、農村部の生活は農業中心で、暮らし向きは厳しく、ほとんどの人々がひどく貧乏だった。まともな学校や医療、舗装道路、安定した電力供給などの基本的設備・サービスも提供されていなかった。
それから20年後に早送りすると、生活はめざましく向上した。ほとんどすべての人々が電力を利用でき、町のおよそ95%、村の約80%に舗装道路があり、約96%が基本医療にアクセスできる。所得は都市部に比べると低水準にとどまっており、一人当たり平均可処分所得は約5000元(760ドル)で、第一級都市の5分の1である。それでも所得は上昇中で、2005年の平均所得は407ドルだったが、4年後には845ドルと、年平均成長率20%の増加を遂げている。また、農村部人口のうち年収882ドルを超える住民の割合は、2009年には34%にすぎなかったが、2015年には54%に達すると予想される。
この生活水準向上の大きな要因は、職業の多様化である。この期間、中国農村部の農業手法の改善はわずかで、農民の収入もほんの少し上昇したにすぎない。しかし今や、中国農村部では林業、漁業、建設業、れんが・セメント製造業が行われている。中国政府が自国の成長と社会的調和を促進するために、都市化を推進する傍ら、農村部社会に対しても相当な再投資に取り組み続けており、この流れは継続すると見込まれる。