インターネットの普及、そしてソーシャルメディア時代の到来により、ブランドのイメージはネット上の口コミに左右されてしまうようになった。そんななか、ラグジュアリーブランドは自社の情報発信のあり方を大きく進化させている。今どきの生活者にメッセージを効果的に届けるための新たな手段とは。

 2012年10月、シャネルはちょっと変わったウェブサイトを新たに立ち上げました。新商品が発表されるわけでも、ファッションショーのライブ中継が行われるわけでもありません。そこで発信されたのは、まるで映画のようなショートフィルムの数々でした。

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芸術性の高いショートフィルムでシャネルというブランドの歴史や伝説を解き明かすウェブサイト「Inside CHANEL」。

 サイト名は「Inside CHANEL。アイコニックな香水「No.5」について語るマリリン・モンローの秘蔵インタビューといった貴重な資料をテーマごとにまとめた数分間の動画をアート作品のように編集することで、シャネルにまつわる物語を紹介しています。

 現在も更新中の同サイトは広く閲覧され、各動画の再生回数は平均で数十万、創始者であるココ・シャネルの生涯を扱った「Coco」に至っては600万回以上も見られています。シャネルというラグジュアリーブランドの歴史を見事にコンテンツ化することで、これほど多くの人に響いているのです。

 Inside CHANELのように、自社の“伝えたいこと”をブランドのプラットフォーム上でコンテンツ化して発信することを「オウンドメディア・マーケティング」と言います。

 こうしたオウンドメディア、古くはミシュランの「ミシュランガイド」やギネスの「ギネスブック」など、多くの企業がさまざまなかたちで自社のブランディングに活用してきました。

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創刊15周年を迎えたルイ・ヴィトンの「シティ・ガイド」。東京版もあり、秋葉原やカプセルホテルなども日本ならではの文化として紹介されている。

 ラグジュアリーブランドでも、ルイ・ヴィトンが出版事業を手がけていることは有名です。なかでも世界の観光ガイドブック「シティ・ガイド」は今年で創刊15周年。一流のジャーナリストや作家、編集者たちによって選び抜かれた現地情報の数々は、ガイドブックの枠に囚われないユニークさにより支持されています。

 しかし、インターネットの普及、ソーシャルメディア時代の到来を迎え、ラグジュアリーブランドにおけるオウンドメディアのあり方は大きく進化しています。シャネルのようにデジタルの持つ拡散力を生かすブランドもあれば、書店に並ぶライフスタイル誌と遜色ないクオリティの“雑誌”を創刊し、実際に販売する例などが登場しているのです。

 いったい、その背景には何があるのでしょうか。