●このコンセプトを実行し成功させるには、持続的な努力を要する。従業員ロイヤルティと顧客満足を確立するには、トレーニング、評価、報酬等のさまざまな分野にまたがって何年にもわたる取り組みが必要である(「これをやれば、あなたもすぐにお金持ちになれる」というような記事がHBRに掲載されていたら、私はこの雑誌を読まない)。
●論文中のアイデアを現実のものとするには、部門横断的に実践されなくてはならない。少なくとも人事部、営業・マーケティング部、業務部門を巻き込む必要がある。非常に多くの職務に関わり、多大なリソースを投入する必要があるため、実行のプロセスには往々にしてCEOの関与が求められる。私は過去に、サービス・プロフィット・チェーンの導入に失敗した例をいくつか見ているが、軋轢を恐れずに部門横断的なコラボレーションを実現させようとする者が、誰もいなかったことが原因だった。
●ここに書かれているのは単なる1つの施策ではなく、「企業の生き様・あり方」である。成功には長期的なコミットメントが必要だ。優先順位をころころと変える組織(たとえば「顧客志向」の次には「経費削減」など)では、うまくいかないだろう。リーダーの首を、自身の得意とする施策を導入して名を上げようとする者にすげ替えるような組織でも成功しない。
●最後の特徴として、このアイデアが世に出てからすでに20年ほど経っており、HBRに2度掲載され、いくつもの書籍で取り上げられているにもかかわらず、このコンセプトを耳にしたことがないというサービス業界の幹部に私はよく出会う。ある大手小売企業のCEOは、自社が90年代に導入に成功したことをまったく知らなかった。
では、この好評論文のみに固有の特徴とは何であろうか。1つは、この概念の具現化に最も成功した人々に、論文の著者自身が含まれることだ。ラブマンはサービス・プロフィット・チェーンをハラーズ(現シーザーズ・エンタテインメント)に導入し、世界最大のカジノ・チェーンをつくり上げた。シュレジンジャーは、みずからがCOO兼副会長を務めたリミテッド・ブランズ(ヴィクトリアズ・シークレットなどの女性向けファッションブランドを傘下に持つ小売企業)で軌道に乗せた。ファストフード・チェーンのウェンディーズの共同オーナーであるジョーンズは、多くのフランチャイズ店舗でうまく取り入れた。残る2人の著者、ヘスケットとサッサーは、現役または非常勤の研究者であるが、サービス・プロフィット・チェーン・インスティテュートのコンサルタントまたはアドバイザーとして、数多くの企業を支援してきた。
この論文に関するもう1つの特異な(そして残念な)側面は、著者陣がハーバード・ビジネススクールからほぼ散り散りになってしまったことだ。シュレジンジャーとラブマンは企業幹部になり、ジョーンズは起業家に、そしてヘスケットは同校の名誉教授となった。サッサーだけが同校の現役教授として留まっている。サービス・マネジメントの「ドリーム・チーム」は解散したが、アイデアは生き続けている。それは雇用者の在り方、顧客、そして事業の成功について真剣に考える人ならば、誰でも取り入れることができるのだ。
HBR.ORG原文:Retail's Winners Rely on the Service-Profit Chain November 26, 2012

トーマス H.ダベンポート(Thomas H. Davenport)
バブソン大学の特別教授。情報技術・経営学を担当。マサチューセッツ工科大学センター・フォー・デジタル・ビジネスのリサーチ・フェロー。インターナショナル・インスティテュート・フォー・アナリティクスの共同創設者。デロイト・アナリティクスのシニア・アドバイザーも務める。