「シェイピング戦略」とは、多数の企業の提携によるグローバル・ネットワークを生かして、業界や市場を刷新すること。VISAのクレジットカード事業、グーグルの広告事業やフェイスブックのSNSなどが好例だ。この戦略は、壮大なアイデアを実現したい個人が用いることもできるという。仲間を動員し変革を推進するための、5つのポイントを紹介する。


 13歳の娘を交通事故で亡くしたことをきっかけに、キャンディス・ライトナーは1980年にMothers Against Drunk Driving (MADD:飲酒運転に反対する母の会)を設立した。教育や法制化を通じて飲酒運転と戦うためだ。そのわずか数年後、ライトナーとMADDは、飲酒の年齢制限を21歳に引き上げない州に罰則を課す連邦法の通過にきわめて重要な役割を果たした。

 マッキンゼー初の女性コンサルタントとして入社したバーバラ・ミントは、効果的な情報の伝達に苦心しているコンサルタントが多いことに気づいた。そこでミント式「ピラミッド原則 」を開発し、社内スタッフの文章の構造化を手助けした。マッキンゼー内で支持を得ると、他の企業へその枠組みを紹介した。以来、この手法はコンサルティング業界で広く定着している(邦訳は『考える技術・書く技術』ダイヤモンド社)。

 ライトナーもミントも、最初は1つのビジョンを持った一個人にすぎなかったが、やがて自分が関心を向ける分野に大きな影響を与えるようになった。2008年のHBR論文「シェイピング戦略―無数のパートナーを呼び込んで業界を変革する」(邦訳は本誌2009年1月号)で筆者らは、一部の企業がビジネス・エコシステムの力を活用して、業界や市場そのものを変革していることを論じた。そしてわかったのは、個人が壮大なアイデアを(社会的便益のためであれ、仕事上の利益のためであれ)実現しようとする時にも、シェイピング戦略の教訓の一部を適用できるということだ。

1.魅力的な「シェイピング・ビュー」(展望)を描く
 支持者を動員するには、説得力のある将来展望を提示することが効果的だ。その最も有名な例は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが1963年に行った「I have a dream(私には夢がある)」の演説だろう。公民権運動の指導者として評判を集めていたバプティスト派の牧師は、わずか17分で、人種差別のない世界を鮮やかに描いてみせた。それは支持者たちの心に火をつけ、そのような世界を実現するための行動に(そして、生命を危険にさらす行為までも)駆り立てた。

 これほど劇的なスピーチである必要はないにせよ、ベンチャー事業を興そうとするならば、説得力のあるビジョンは重要だ。マーク・ベニオフは1999年にセールスフォース・ドットコムを立ち上げた時、自社のビジネスを売り込むためではなく、独自の将来展望を伝えるためにスピーチを利用し、支持者たちに展望への参加を呼びかけた。業界が激変を遂げることを聴衆に信じてもらうことで、その実現に投資してみようという気にさせたのだ。