「聞く力」はリーダーの、ひいては組織の命運を左右する必須能力だ。マネジメント・グールーとして世界のリーダーたちに接してきたラム・チャランが、その重要性と5つの訓練法を伝授する。
「フォーチュン500」社に数えられるハイテク企業に、次期CEOの呼び声も高いやり手のバイス・プレジデントがいた。彼は現CEOの前で年次評価面接を受けながら、困惑していた。同僚や顧客、直属の部下、そして特に役員たちから、ある致命的となりかねない問題を強く指摘されていることを知らされたのだ。それは、「聞く力」の欠如だった。このバイス・プレジデントは、社内で指折りの優秀な幹部と見られていたが、もし本当にトップの座を目指すつもりなら、この問題に早急に対処しなければならないことは明らかだった。
この問題を抱えているのは、彼だけではない。私の知る限り、企業リーダーの360度評価によれば、4人に1人は聞く能力が欠如している。これは組織横断的な連携の支障となり、出世の足枷となり、それがもしCEOならば会社全体の危険につながる場合もある。だが、これを回避することはできる。目まぐるしく変わる今日のビジネス環境にあって、時間のないリーダーでも聞く技術を身につけることは可能である。
聞き上手になるために従来から言われていることは、心の知能(自他の感情を認識し、コントロールする力)を高め、相手に心を開くというものだ。しかし本当の聞き上手になるには、それだけでは全然足りない。真に共感を持って聞くための秘訣を、以下に紹介しよう。
●重要なポイントを聞き分ける
ハネウェルの元CEO、ラリー・ボシディが実際にやっている場面を見たことがある。3億ドルの技術投資案件に関する事業部長の説明を聞きながら、ボシディは手元の紙に、左右を3対1の面積に分ける縦線を引いた。そして、左側の広いほうに詳細を書き留め、右側には時折、キーワードと思われるものや自分の注意を引いた事項を2~3語で書き記した。この単純な方法によって、彼は重要事項を努めて聞き取り、プレゼン後の質疑応答では本当に大事なポイントに絞って質問をする習慣を身につけていた。
上記の方法でなくても構わないが、会話の中で重要なポイントを抽出する訓練をすべきだ。そこで突っ込んだ質問を返し、ポイントをさらに明確にし、あるいは具体化することで相手に自分が理解したことを伝える。これには、あなたが話を正しく理解したことを示す以上の効果がある。第一に、相手は考えやアイデアの要点をあなたに把握してもらえたことに満足する。第二に、相手にとってその喜びは、さらに考えを深め解決策を生みだそうとする動機づけとなり、力となる。傾聴は、人と心を通じ合わせるための扉であり、人間関係や能力を築くための入口なのだ。