意思決定ツールの多くは
使いどころを間違えている

 シニア・マネジャーは、難しい意思決定の対価として報酬を受け取っている。報酬が増えるも減るも、決断の結果で決まるところが大きい。経営幹部は全体的な成功率によって──至極真っ当に──評価される。そして当然のことながら、戦略的決断にはリスクが付きものだ。しかし我々は、経営幹部、ひいては企業全体が、たった一つの単純なこと(簡単とはいえないが)を変えるだけで、成功率を大幅に改善できると考える。使用可能な意思決定ツールを増やし、各々の決断に最も適したツールは何かを理解し、それらを活用するということだ。

 ほとんどの企業は、基本的な意思決定ツール──割引キャッシュフロー分析や、ごく単純な定量的シナリオ・テスト──に過度に依存し、非常に複雑で不確実な状況にまで適用しようとする。我々はコンサルティングや幹部教育を通してそんな例を何度も目にしており、また研究によっても裏づけられている。ただし、誤解はしないでほしい。安定した環境、十分な情報の下、熟知したビジネスモデルを展開できる場合には、ビジネス・スクールで学ぶような伝統的な意思決定ツールも効果がある。

 しかし未知の領域、たとえば変化の激しい業界への対応、新しいタイプの商品の発売、新たなビジネスモデルへの移行といった場面では、その有用性は格段に下がってしまう。なぜなら、意思決定者はきわめて網羅的かつ信頼性のある情報にアクセスできるという前提に立っているからだ。我々が過去20年間に関わったビジネス・リーダーは皆、不完全で不確実な判断材料しか得られない状況で決断するケースがますます増えていると感じている。