予期せぬ相手と、社員食堂で相席になる――このシンプルな現象を、制度化したらどうなるか。ちょっとした実験精神が大きな可能性をもたらす事例を紹介する。偶然の出会いを組織内で促進すれば、学習機会やイノベーションのきっかけを生むことができる。


 縦割り組織の壁を打ち破ることは、さまざまな面で重要だ。たとえばコミュニケーションの促進、有意義な人脈づくり、イノベーションの誘発などにつながる。しかし誰もが知るように、部門間の溝を埋めるのは口で言うほど簡単ではない。一部の企業は幸いにも、独創的な解決策を編み出し始めている。「ランチ・ルーレット」は、製薬会社のベーリンガーインゲルハイム(BIPI)のアメリカ支社で用いられている斬新な取り組みだ。

 多くの優れたアイデア同様、このコンセプトも不満から生まれた。考案者は、同社内で科学者からソーシャル・メディア戦略家に転身したデイビッド・トンプソン。ある日、ランチの相手を探したが同僚の誰も都合がつかなかった。社内のカフェテリアに行ってみても、知らない顔ばかり。「この時に抱いた大きな疎外感は、不愉快なものでした」と彼は振り返る。その日の夕方、帰宅途中の車の中で、ウェブ・アプリケーションのアイデアを思いついた。全社員をランダムに組み合わせて、ランチの相手を決めるアプリをつくってはどうだろう。そしてすぐに、マーケティング担当のクリストファー・タンにメールを送った。タンはモバイル技術に関心があり、アプリ作成の経験があった。それから36時間以内にプロトタイプが完成。2人は同僚の何人かにアプリを送って参加を呼びかけた。

「ランチ・ルーレット」は4つのシンプルなステップから成る。参加者は、ランチの時間が空いている日(複数も可)と、行きたい社内カフェテリアを選ぶ。そして、「マッチング」ボタンをクリックすると、ランチの日時と場所を記したリマインダーがメールボックスに届く。あとはランチに出向くだけだ――オープンな姿勢と、人脈づくりへの意欲を携えて。

 スタートから12時間以内にかなりの申し込みがあり、7週間で350人以上がマッチングされた。最初の100人のなかにはBIPIのCEOもいて、ブランド・マーケティング部門の若い従業員とペアになった。「CEOというのはたいてい、予定された相手としか話す機会がありません。ランチ・ルーレットでは、CEOは誰とペアになるのかを知りません。それは相手も同じです」とトンプソンは言う。「双方が相手から何かを学ぶことができます。結局のところ、上司と部下が学び合うことができないのなら、その人たちはこの会社にいるべきではありません」