最新号の特集「意思決定を極める」の編集を終えて、編集長が特集にこめた思いを語る。意思決定の質を上げるとはどういうことか、がテーマとなる。
経営者にとって、いやすべてのビジネスパーソンにとって、意思決定ほど悩ましいものはないでしょう。小さなものでは、アポを入れるか入れないか、どのタイミングで連絡するか。大きなものでは、新しい企画に「OK」を出すか、人を採用するか、企業を買収するか、などきりがありません。アポの調整と企業の買収を同じ次元で語るのもムリがありますが、どちらも結果が後にならないと分からない不確実性との対峙という共通項が意思決定の本質です。
意思決定のプロセスは、まず問いに対して、不確実な部分と自明な部分を切り分けることからはじめます。大切な顧客を食事にお招きする際には、その人の好みを調べます。お肉が好きだと分かれば、ステーキがいいか、焼肉がいいかなどを次に検討すれば、課題が狭まります。これら自明の事実を調べる過程を省略してしまうと、正しい意思決定となる確率が下がるのは否めません。
しかし、お肉は好きけど健康診断でコレステロール値の高さを指摘された後で、最近はカロリーを控えておられるかもしれません。その意味で、どれだけ調べても不確実性は残るのです。
新製品の発売なども同じです。類似の商品の存在を調べる、などは欠かせないでしょう。仮に類似商品があり売れていると分かれば、「いけるだろう」という判断を下すか、あるいは「もはや市場に可能性はない」と判断する場合もあります。かようにファクトデータを見ても、何を自明の事実とするか否かも、不確実性に関わる問題です。
つまり意思決定は、不確実性との対峙の仕方です。すべての方法論は、この不確実性を減らすプロセスであり、それはすべての思考技術が目指す方向でもあります。すべての思考法はよりよい判断を導くプロセスを紹介したものです。演繹法も帰納法も、最近注目される仮説検証法もすべては「何かを決めるため」のツールとなります。
その上で、意思決定の良し悪しは何で決めればいいのかと問われれば、間違いなく「結果」以上でも以下でもありません。結果が良ければ、熟考なしの決定でも、サイコロを振っての決定でも構わないのです。結果が悪ければ、ディシジョンツリーを使おうが、ロジカルシンキングを使おうが肯定されません。どれだけ真剣に考えたか、どれだけ労力を費やしたかも、「結果」に優先順位を譲ることになります。
結果は、ビジネスにおける意思決定の場合、ほとんどの場合、数値などで明確に表されます。
となれば、意思決定の質とは結果であり、プロセスの質は関係ありません。ファクトデータをいくら集めようと不確実性が残る意思決定。しかし、その成果はファクトデータで明確に評価される。このパラドクスを理解してなお、我々は日々、どのようにすれば意思決定の質を高められるのかを悩んでいるのです。しかも結果は運などの外部要因にも左右されます。確信のある決定が結果を伴わないことがあっても当然です。この理不尽な状況に対峙することこそ、マネジメントの仕事です。今号の特集はそのヒントになると確認しております。(編集長・岩佐文夫)