北半球(先進国)の停滞と南半球(新興国)の急激な成長が、世界経済の秩序を再構築する。新興国企業が先進国の名だたる企業を買収し、GEやP&Gはアジアに経営の拠点を移しつつある。ラム・チャランはこの趨勢を「グローバル・ティルト」と呼び、南側のリーダーの優れた資質を挙げる。
ブラジルの投資会社3Gキャピタルが、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイと手を組み、米食品大手ハインツを28億ドルで買収することが2013年2月に発表された。このニュースを受けて、M&Aの動きが再び活性化してきたことを指摘する声がある。その可能性はあるが、私はこの出来事をもっと大きな、あらゆるビジネスの将来に関わる見過ごせないトレンドの一環として捉えている。つまり、私が「グローバル・ティルト」と呼んでいるものだ。
グローバル・ティルトとは、経済の勢いが北から南へと不可逆的にシフトすることを意味する。つまり北半球の米、欧、日本から、中国、インド、ブラジル、インドネシア、マレーシアといった南半球の国々へと経済の勢いが移っているのだ。雇用、富、そして市場機会の重心が動いており、私たちの知る世界経済の秩序が激変しつつある。
資本の流動化、モバイル通信の発達、中産階級の拡大などがグローバル・ティルトを招いているが、人的要因も大きい。南のビジネスリーダーたちは新興の投資家層と手を組み、成長に必要なノウハウと容易に調達できる成長資金を活用して、活発に動いている。一生に1度のチャンスをつかむために、急速な規模拡大を目指しているのだ。彼らが築こうとしている帝国は、コーネリアス・ヴァンダービルト、J・P・モルガン、アンドリュー・カーネギー、ジョン・D・ロックフェラーなどが19世紀に築いたものにやがて匹敵するかもしれない。
南のリーダーたちは、政府の支援や安い労働力のおかげで成功しているのだろう――北のリーダーたちがこのように解釈し過小評価するのは簡単だ。しかしそうした見方は視野狭窄であり、危険でもある。成功している南のリーダーたちは、活力と野心に富み、卓越したビジネス手腕を持ち、地球上のどこでも競争する意志がある。彼らの強みは、以下のような点だ。
●貧しい生い立ち
南のリーダーたちは、その多くが困難な環境で育ってきた。即興で動くこと、そして薄利での商売は、彼らに染みついた習性だ。儲かるか損をするかはオペレーション次第であることを知っているため、これを徹底的に追求する。世界第4位の通信会社、バーティ・エアテルの創業者兼CEOスニル・ミッタルは若い頃、インドのルディアナで自転車メーカーにクランクシャフトを売って生計を立てていた。流通・販売の報われない仕事をこなすなか、いつも顧客に言い値で押し切られ、乏しい予算のせいでトラックや満員列車の荷台に乗らざるを得なかった。彼が薄利の商売によって鍛えられた経験を忘れることはない。