経営陣が重大な意思決定を誤るのはなぜか。それは経営能力の欠如や不運ではなく、プロセスや組織上の問題が理由であるという。ベイン・アンド・カンパニーの調査が明らかにした、意思決定を誤らせる5つの罠を紹介する。本誌2014年3月号(2月10日発売)特集「意思決定の技術」の関連記事、第3回。


 経営陣は時に、会社の命運を賭すような意思決定をしなければならない。正しい決定によって、大きな見返りを得られることもある。サウスウエスト航空は2007年、ジェット燃料の高騰を見込んでヘッジしておくという判断を下し、それが見事に正しい予見であったことがのちに証明された。だが、時には重大な意思決定で恐ろしいほどの間違いを犯してしまう場合がある。AOLとタイムワーナーは2001年の合併で時価総額3500億ドルの企業となったが、結局2009年に合併を解消した。タイムワーナー会長兼CEOのジェフ・ビュークスと元CEOのジェラルド・レビンは、のちにこの合併を「企業の歴史上最大の誤り」と呼んだ。

 世間では、サウスウエストのように正しい意思決定を下すために必要なのは、卓越した経営陣と大きな幸運だと思われている。だが、意思決定をよく研究してみれば、そうではないことがわかる。AOLとタイムワーナーの経営陣は、決して愚かだったのではない。たしかに運も関係するだろうが、運がすべてなのであれば、多くの企業がこれほど長く生き延びているはずがない。

 私は長年、企業上層部の意思決定を研究している。そこで気づいたのは、現実はもっと地味であるということだ。サウスウエストのような優れた意思決定は、ほとんどの場合、しっかりとした意思決定プロセスから生まれる。同様に、タイムワーナーのような失敗につながる意思決定の背後には、プロセスや組織上の問題がある場合がほとんどだ。私がベイン・アンド・カンパニーの同僚と意思決定の事後分析を行ったところ、お粗末な意思決定の大部分は5つの誤りから生じていることがわかった。

●非現実的な「万能の解決策」を求める
 ビジネス上の課題は複雑なものばかりだ。しかし、幹部は特効薬を切実に求めてしまう。競合を一足飛びに追い抜ける方法や、即座に業績を急上昇させる方法などだ。その一例が組織再編である。CEOの半数近くが、就任してから2年以内に組織を再編する。複数回行う者も多い。しかし、それが業績の改善に結びつくケースは全体の3分の1にも満たない。クライスラーは自社をフィアットに売却する前の3年間、組織再編を3回行った。そのたびにクライスラーのCEOは、組織再編により経営再建を果たすだろうと述べた。そして3回とも再建は実現しなかった。

 したがって、今度だれかが「この問題に何か単純な解決策はないのか」と聞いてきたら、こう答えよう。「多分ありません」

●複数の選択肢をしっかり検討しない
 ビジネスとは選択のゲームである。そして、よい選択肢なしにはよい選択はできない。しかしほとんどの企業は重大な意思決定に際し、複数の選択肢を作成・検討しない。タイムワーナーがオンラインへの進出にあたり、もしも(AOLとの合併ではなく)他の選択肢――戦略的提携、合弁事業、自前で早急に能力を開発するなど――を検討していたら、何が起こり得ただろうか。代案をしっかり作成・検討すれば、意思決定の質を必ず向上させられる。

 今度だれかが何かの計画を提案してきたら、2つの単純な質問をしよう。「他にどんな選択肢を検討しましたか?」「なぜそれを却下したのですか?」