非現実的な楽観主義の危険を最もわかりやすく示す一例として、ダイエットに関する研究がある。心理学者のガブリエル・エッティンゲンは、ダイエット・プログラムに参加している肥満女性のグループに「自分の目標を達成できる自信があるか」と質問してみた。そして、「自信がある」と答えた女性のほうが、そうでない女性と比べて26ポンド(11.8キロ)も多く減量できたことを発見した。予想通りの結果だ。

 しかしエッティンゲンは同時に、「成功への道のりはどのようなものだと思うか」という質問もしていた。誘惑に打ち勝つのが難しいと思うか、あるいは会議室で無料のドーナツに手を出すことや、取り放題のレストランでおかわりに立つことを我慢するのはたやすいと思うか。

 その結果は驚くべきものだった。「容易に成功できる」と考えていた女性は、ダイエットは「朝飯前というわけにはいかない」と考えた女性と比べて、減量できた体重がなんと24ポンド(10.9キロ)も下回ったのである。

 エッティンゲンは、大学卒業後に高給の職を探している学生、持続的なパートナーを探している独身者、人工股関節置換手術から回復途上にある高齢者を対象とした研究でも、似たようなパターンの結果を得た。現実的楽観主義者のほうがより多く求人に応募し、恋人候補に接近する勇気を奮い起こし、リハビリに励んだ。いずれの場合も、成功する確率がはるかに高かったのである。

 成功への道のりは険しいと考えたほうが、より大きな成功を収めることができる。行動を起こすことを強いられるからだ。自分は成功できると信じており、同時に成功は容易にはやってこないと認識している人は、そうでない人よりも努力するし、問題が起きる前にそれに対処する方法を考える。困難に直面しても粘り強く立ち向かう。

 懸念を口にしたり、不安を抱いたり、目標達成を阻む障害に取り組むために長い時間をかけたりするのは、脳天気な非現実的楽観主義者に言わせると、「ネガティブだね」ということになる。しかし実際には、こうした考え方は努力を成功に導くために必要なステップであり、自信に基づいた楽観主義と矛盾するものではまったくない。

 自分が欲しいものだけに集中するあまりに、他のことをすべて忘れてしまうのは、世間知らずで向こう見ずなやり方というほかない。そのせいで、業界のリーダー企業たちは(時には業界全体も)窮地に陥ってきたのだから。

 ポジティブな姿勢と、自分を待ち受けている課題を正しく見極めようとする努力――この両方を組み合わせれば、現実的な楽観主義を身につけることができる。「成功」を思い描くのではなく、「成功へのステップ」を思い描くのだ。


HBR.org原文:Be an Optimist Without Being a Fool, May 2, 2011.