ハーバード・ビジネス・レビューでは、毎月、講師をお迎えして勉強会を開催している。少人数によるディスカッションを中心とした勉強会は、議論の濃さと活気で好評だ。今回はSoup Stock Tokyoなどを展開する、スマイルズ社長の遠山正道氏を講師に迎え、「やりたいことをやるビジネスモデル」というテーマで、プレゼンテーションを行っていただいた。

【テーマ】やりたいことをやるビジネスモデル
【 講師 】遠山 正道氏(スマイルズ 代表取締役社長)
【 日時 】2014年3月24日(月) 20時~21時30分
【 場所 】株式会社スマイルズ(東京・中目黒)

DHBR勉強会について

 ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)では、毎月1度、講師をお迎えして勉強会を開催しています。この勉強会は、DHBR誌に寄稿いただいた方を講師としてお招きし、執筆テーマに沿ったプレゼンテーションの後、参加者の方々とディスカッションを行う形式をとっています。アットホームな会場、20名という少人数、隔たりのない講師の方との近さという贅沢な空間が、ほかにはない活発な議論を誘い、これまで参加いただいた方々からも好評をいただいております。また、参加者の年齢や職種も幅広い層にまたがっており、大変刺激的な会となっています。

重要なのは「なぜやるのか」

 今回の勉強会は、株式会社スマイルズで開催しました。参加者が受付を済ませて着席すると、同社が運営するSoup Stock Tokyoの人気メニューである「オマール海老のビスク」が次々に運ばれてきました。いつもと違う会場、いつもと違う時間、そして温かく美味しいスープ。そうして解された空気の中、勉強会は始まりました。

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遠山 正道(とおやま・まさみち)
 1962年、東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、三菱商事入社。1999年にSoup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)第1号店をお台場ヴィーナスフォートに開店。2000年、三菱商事初の社内ベンチャー企業としてスマイルズを設立。2008年、MBOにより株式100%を取得し、三菱商事退社。アーティストとして個展を開催する他、ネクタイ・ブランドgiraffe(ジラフ)も手がける。2009年9月、新コンセプトのリサイクル・ショップPASS THE BATON(パスザバトン)を丸の内にオープンし、みずからディレクションを行う。2010年、表参道ヒルズに2号店をオープン、現在に至る。著書に『スープで、いきます』(新潮社)、同文庫版『成功することを決めた』(新潮文庫)『やりたいことをやるというビジネスモデル――PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。

 最初に企業理念を紹介する映像が流れたあと、「企業理念を形にしたものは、実は新卒採用するまでなかったのですが、初めて企業理念を書いたときに、言葉ってすごく大事だなと思った」と遠山氏は実感を込めて話されました。
 やりたいことをやるためには、まず「なぜやるのか」「どうしてやりたいのか」という根っこがあり、そのうえに手段としてのビジネスがあります。しかし「やりたい」だけではビジネスになりませんし、「なぜやるのか」が明確でなければ、この供給過多の時代ではうまくいかないでしょう。その両方のバランスが取れて初めてうまくいくのです。
 牛丼チェーンがどんどん値下げしているのに、Soup Stock Tokyoではスープ1杯が610円でずっと変わりません。原価率も高く、利益が安定して出るようになったのは、事業を始めてから8年目でした。ビジネスの側面だけ見れば、いつ潰れてもおかしくないダメなビジネスかもしれません。それでも「なぜやるのか」という点が明確にあったからこそ、今まで続けられました。
 では「なぜやるのか」。たとえば、ファーストフードに対する意識を変えたかったというのは、その理由のひとつです。「ファーストフードはよくないものだ」ということがいつの頃からか言われるようになりました。しかしファーストフード・ビジネスそのものがダメなわけではありません。ダメだと言われるところには、ビジネス・チャンスが潜んでいます。ダメなものはよくすればいい、それだけのことです。そして「200円高くても美味しいものを食べたい」というニーズもあります。だから決して安くはないけれども、体にいいものをファーストフードとして提供するSoup Stock Tokyoのビジネスが生まれたのです。

行動するためのエンジンは不合理でいい

 三菱商事にいたころ、非常に優秀な部長がいました。もし、その人がいなくなったらどうなってしまうのか考えた時、「このままサラリーマンを続けていても自分は満足しないだろう」と感じ、「何かしないと」と思いました。そこで自分の絵の個展を開いたのです。なぜそうしたか、合理的な説明はできません。この不合理こそが重要なのです。
 とある企業で企画への投資審査の担当者と話した時、そのような思いを共有しました。「審査する側はダメな理由なんていくらでも思いつける。企画を通そうとするならば、合理性よりも、何が何でもやりたいんだ!というような人間臭さが必要です」と言うのです。まさにその通りだと思います。合理的な話は合理的な話で打ち返されるのです。だから「やりたいことをやる」には不合理の力が大きく働くのです。
 私が絵の個展を開いたのも、そうした思いがあったからです。やらない理由はいくらでも考えられます。人は基本的に行動することにリスクを感じるものです。だからこそ、行動できる人はリスペクトされるのです。そして行動をすることで、リスクに対する責任を負います。私の場合、絵の個展を開くことで、本業の仕事が疎かになってはいけないという責任を負いました。一方で、プロのアーティストから見て商社マンの道楽と思われないように、絵についても真剣に取り組みました。「やりたいことをやる」ためにも、中途半端なことはできません。この個展があったからこそ、今の私があると思います。