これまで、アナリティクスの変遷と活用事例(第1回)、活用のための3つのポイント(第2回)、成功する組織の4つの特徴(第3回)について紹介してきた。アナリティクスのいまを知り、実践におけるポイントを押さえたところで、今後のアナリティクスがどのように活用されるか、データ・サイエンティストの視点から分析を行った。アナリティクス連載、最終回。
今後もアナリティクス活用の可能性は広がってゆく。その可能性を具体的に考えるためには、未来のトレンド予測が欠かせない。そこで今回は、現状からある程度先行きが読めてしまう近い未来や、まったくの夢物語となってしまう遠い未来ではなく、「少し先の未来」である2030年に、先進国でどのような変化が起きているかを「社会トレンド」と「技術トレンド」の両面から予測する。それらのトレンドを組み合わせれば、アナリティクスがもたらす変化も浮かび上がってくる。その予測に基づき、企業や自治体がこれから解決すべき課題とは何か、考えてみたい。なお、予測に際しては現時点における限られた前提事項に基づくものとなることを、ご承知おきいただきたい。
今後15年の社会トレンドを予測する
まず、「社会トレンド」であるが、注目すべきものは、大きく4つある。
(1)人口動態・寿命
大災害が起こらない限りは世界の人口は現在より12億人増加して84億人となるとされている。先進国を中心に高齢化が進み、平均寿命は80歳近くに達するだろう(出所:World Population Prospects: The 2012 Revision)。生活習慣病に悩む人々が増え、高齢者層特有の財やサービス(個別ニーズに対応した遺伝子治療、オーダーメイド医療、再生医療など)の消費が増えることが予想される。例えば、Vitality社が開発した「GlowCap」は、通信機能付き薬ケースであり、薬の消費量、消費タイミングをモニターすることで、服用すべき時間に合わせて患者に薬を飲むように警告し、その情報を医者にリポートしたり、空になるタイミングで薬局に補充まで注文できる仕組みも持っている。
(2)資源
人口増に対応するため、エネルギー量・農産物生産量を倍増しなければならないが、異常気象の多発により、農作物・水資源がさらに希少になるおそれがある。また、限られた資源(土地、建物、移動手段など)を有効に使うために、共同所有を促進するサービスが普及するだろう。すでにカーシェアリングのCar2Go, Autolib、自転車シェアのVelib, Citi Bike、不動産賃借のAirBnB、駐車場シェアのPark At MyHouseなどが普及し始めている。シンガポールでは市内中心部の交通渋滞を緩和するため、一部有料エリアを設け、ERP(Electronic Road Pricing)を導入している。通行料金は一律ではなく、通行時間、車種、場所、有料エリアの通行回数に応じて異なり、四半期ごとに料金体系が見直されている。
(3)社会のリスク
社会の不安定化(金融危機・異常気象・サイバー攻撃・バイオテロ・失業増加など)が進む中で、政府・企業・家庭がリスクを抱えきれなくなり、保険会社がその領域を大幅に拡大させることが予想される。保険会社は、個人向けのサービスを拡大し、個人が設定された規範に従っているかを監視するようになり、次第に地球規模で規範をコントロール(健康、食事、消費行動、教育、運転マナー等へのアドバイスを通じた管理)するようになるだろう。損保ジャパンでは、日産リーフのプローブ情報を使い、走行距離や運転スタイルと連動したUBI(Usage Based Insurance:利用ベース保険)を2013年から発売している。
(4)人の欲求
消費者の利便性を追求した製品・サービス開発が熾烈化し、マス向けのモノ・サービスの価格は下がり続ける。より多くの情報へアクセス、また情報発信が可能となることで消費者の役割は増大する。その一方、低価格競争による賃金低下に加え、先進国への移民流入、また従来人間が介在する必要があった作業が機械、ロボットによって浸食されることで労働者の役割は低下を続け、雇用問題は深刻化する。このような状況で生き残るために必要な情報・知識の量は膨大になり、それらを得るための必要な時間も増大するため、生活のあらゆる時間を効率化するニーズがより強まる。効率性の追求により疲弊することで、孤独感・疲労感を紛らわせるための消費が増え、娯楽産業は進化する。
人口増というメガ・トレンドに伴い、省資源化や社会の不安定化が進むという予想である。こうした変化は既にその兆しを見せているが、今後ますます加速していくと考えられる。そして効率性を追求することで、人々の生活のあり方が変化することが予測される。