セルフ・エスティーム(自尊心)はアメリカの自己啓発書で一大ジャンルを成し、成功に不可欠とされている。しかし筆者によれば、「自分は素晴らしい」と信じプライドを保ったり、自分に厳しくしたりすることは成功にはつながらない。むしろ必要なのは、自分を慈しむ心であるという。
米アマゾンのサイトでセルフ・ヘルプ(自己啓発)のカテゴリーを見てみると、そのサブカテゴリーであるセルフ・エスティーム(自尊心)におよそ5000冊もの本があるのを確認できる。これらの本の大半が、強い自尊心を持てない理由を教えるだけでなく、自尊心を高める方法を伝授することを目的としている。
そうした本が売れているのは、少なくとも西洋の文化においては、自尊心が個人の成功の礎と考えられているからだ。自分自身を素晴らしいと思えなければ、人生で成功を収めることなどできない、という理屈である。
自分は素晴らしいと信じ続けるためには当然、実際にそうでなくてはならない。するとどうなるか――過ちを犯す恐怖に常に苛まれ、いざ過ちを犯してしまうと打ちのめされる。みずからを守る唯一の方法は、自分が得意なことだけに目を向け、自分のダメさ加減を露わにした最悪の出来事を忘れ、もっと満足感を得られる何かを見つけるまで自分のエゴをなだめすかすことだ。
どうやらこれは、成功への道とはいささか違うように思えないだろうか? それどころか、『SAGEジャーナル』で発表された最近の研究報告を見ると、自尊心は評判ほどのものではないという厄介な結論に至っているのだ。
強い自尊心は、よりよいパフォーマンスやさらなる成功には関連性がない。たしかに自尊心の強い人は「自分は成功している」と考えているが、客観的にはそうではない。自尊心が強いだけでは、有能なリーダーにも魅力的な恋人にもなれない。健康的なライフスタイルにもつながらないし、面接で魅力的に見られることもない。
しかし、もし強い自尊心(そして自分のすごさを日々確認すること)が問題を解決してくれないとすれば、本当に必要なのは何だろうか。
カリフォルニア大学バークレー校のジュリアナ・ブライネスとセリーナ・チェンらによる新たな報告をはじめ、ますます多くの研究が次のことを示唆している――潜在能力を解き放つカギは自尊心ではなく、「自分への思いやり(セルフ・コンパッション)」である可能性が高いのだ。
さて、「自分への思いやり」などという言葉を聞くとそれだけで疑ってかかる人もいるだろう。しかしこれはデータに基づいた科学的な議論であって、耳に心地よい通俗的心理学とは違う。だから偏見にとらわれず、もう少しお付き合い願いたい。
自分への思いやりとは、自分の過ちや欠点を優しさと理解を持って受けとめる態度である。「人間は間違えるもの」という事実を受け入れるのだ。困難な状況下で自分を思いやるということは、厳しい自己評価を下すこととは違うし、自分の優れた面だけを見てプライドを守ろうとすることでもない。数多くの研究が示しているが、自己を慈しむことが個人の満足や楽観主義、幸福感などを高め、不安や憂鬱を減らすことにつながるのは不思議なことではない。