IT技術の進化によって、人々の行動をモニタリングすることはますます容易になっていく。それが行き過ぎた監視社会につながることを危惧する声もある。では、外食産業で従業員の不正を電子的に監視することは、業績と従業員の行動にどう影響するのか。興味深い調査報告を紹介する。
従業員が会社のものを盗んでいないかどうかを、会社がチェックするのは正当で適切なことだ――あなたはそう思うかもしれない。しかし、誰もがそれに同意しているわけではないようだ。
2013年8月、ニューヨークタイムズ紙に「監視は勤務態度をどう変えるか:レストラン従業員に関するケース・スタディ」と題したスティーブ・ロアによる記事が載った。これはワシントン大学オーリン・ビジネススクールのラマー・ピアース、ブリガムヤング大学マリオット・スクールのダニエル・スノウ、そして私の3名が行った研究を解説したものだ(最近、MITスローン・スクールからこの研究に関するリポートを発表した)。少し前から経営学者と経営者の両方が関心を抱いている1つの疑問について、我々は調査した。「従業員の不正行為に関して、会社が突然いまよりはるかに充実した情報を得るようになったら、会社の業績はどうなるか」。非常に興味深い調査結果と、それを巡る議論を紹介したい。
調査した会社はレストラン・チェーンで、不正行為は給仕係、バーテンダー、マネジャーによる金銭の窃盗だった。レストランは薄利商売であるため、従業員の窃盗は黒字を赤字に変えるほどの重大な問題だ。ある調査によれば、外食産業での窃盗による損失は毎年2000億ドルにも上るという(ロアの記事より)。
我々は、5つのレストラン・チェーン(アップルビーズやチリズのような着席型。ただしこの2社は調査対象外)の計392店舗について、NCRが開発した新しい窃盗検知ソフト〈レストラン・ガード〉の導入前と導入後を調査した。NCRからは、データの供給以外の支援を受けていない。全米50州のうちの39州について、2年分近いデータが集まった。
レストラン・ガードは、従業員のあらゆる疑わしい振る舞いを特定し、店舗管理者に週次報告を生成する(現在はマネジャーの携帯電話に瞬時に警告を送るサービスもある)。この「疑わしい」というのは「非常に疑わしい」行動だ。窃盗の告発は重大事であるため、報告されるのは、よくある不正の手口と一致し、他に説明しようのない振る舞いのみである。そうした不正行為のなかには、かなり緻密なものもある。しかし細かい仕組みをここで暴露してレストラン・ガードに悪影響を及ぼしたくないので、外食産業における不正行為の概要を知りたい方は「不正のバイブル」であるhow to Burn Down the Houseをご参照あれ。
レストラン・ガードは、店のPOSシステムを通過するすべての取引を細かく分析する。従業員は何をやるにもPOS端末を使用しなければならないため(料理の注文処理、伝票の印刷、支払い処理など)、システムはすべての行動に関して、きわめて詳細で完全に近い記録を提供する。NCRは全データを精査して、レストラン・ガードの顧客に報告書を作成し警告を発する。
導入後、何が起こったか。窃盗は明らかに減ったが、大幅にというわけにはいかなかった。減少は調査店舗の平均で週25ドル弱にとどまった。しかし本当の衝撃は、業績が大幅に向上したことだ。週間売上は平均して2975ドル、7%増加した。このうちの1000ドル近くが飲料によるものだった。飲料は利益率が最も高く、窃盗が最も多い品目だ(ロアの記事によれば不正の一例として、客に飲料をタダで提供し、見返りにチップを増やしてもらうという方法がある)。