企業に資金を提供している株主や銀行などが、企業をどう見ているのかという視点がベースとなるのがファイナンスだ。株主はどのような企業を評価するのか、企業に資金を貸し付けている方が重視する格付けとは何か。2つの関係性を考える。
企業価値・株主価値と格付け

西山茂(にしやま・しげる) 早稲田大学ビジネススクール教授。 早稲田大学政治経済学部卒。米ペンシルバニア大学MBA修了。監査法人ト-マツ、㈱西山アソシエイツにて会計監査・企業買収支援・株式公開支援・企業研修などの業務を担当したのち、2002年より早稲田大学。2006年より現職。学術博士(早稲田大学)。公認会計士。 主な著書に、企業分析シナリオ第2版(東洋経済新報社)、戦略管理会計改訂2版(ダイヤモンド社)、入門ビジネス・ファイナンス(東洋経済新報社)出世したけりゃ 会計・財務は一緒に学べ! (光文社新書) などがある。
今回は最終回として、企業に資金を提供している株主や銀行などが企業をどう見ているのか、という視点がベースとなるファイナンスについて学んでいく。具体的には、株主はどのような企業を評価するのか、企業に資金を貸し付けている方が重視する格付けとは何か、2つの関係をどう考えたらいいのであろうか、といった点がポイントである。この3つについて、ソフトバンクとドコモを比較しながら考えていこう。
株主の評価と格付け
どのような企業の株価が上がるのであろうか。株価は投資家が証券市場で株式を売り買いする結果として決まることを考えると、理論的には株主や投資家がその企業をどう評価するかがポイントだ。それでは株主や投資家は、どのような企業を評価するのであろうか。
ファイナンスの理論から考えると、株主や投資家は、配当をはじめとする自らの儲けのベースとして、裏付けのある儲け、つまりキャッシュフローを今後より多く生み出しそうな企業を評価する。さらに、株主や投資家は、すぐに稼ぐ方が、遠い将来に稼ぐよりも価値があると考える。なぜなら、早く稼げば、預金をすることで金利を稼げたり、確実性が高いからである。このように、早く、また多くのキャッシュフローを今後稼ぎそうな企業が評価されることになる。
一方で、もう一つ考えるべきポイントがある。それは株主や投資家がどの程度の儲けを期待しているか、という点である。つまり、彼らが期待している儲けのレベルが高いと、早くまた多くのキャッシュフローを稼ぎそうでも、それがあまり高くは評価されない。一方で、彼らの期待している儲けのレベルが低いと、同じキャッシュフローの稼ぎでも、高く評価されることになる。
では、株主や投資家の期待する儲けのレベルは何がベースになるのであろうか。ファイナンスの理論では、そのベースは金利+リスクと考えている。株主や投資家が株式投資をする場合には、最低でも誰もが確実に儲けられるレベル、例えば国債などの金利程度はもうからないと何の意味もない、と考えるはずだ。そのため金利が儲けの期待レベルの最低ラインと考えられる。
リスクは、日本語では不確実性、変動すること、ブレること、といった意味である。つまり、金利に加えて、業績の変動が激しい、あるいは事業の将来が見えにくく不確実である、といったようにリスクが高い企業に投資をする場合は、そのリスクの分だけより多くの儲けを株主や投資家は期待する、と考えているのである。金利があくまでも最低限の儲けの基準として、どの企業に投資をする場合でも基本的に変わらないものであるのに対して、リスクはどの業界、どの企業に投資をするのかによって違ってくる。
このように考えると、キャッシュフローをより早くより多く稼ぎそうな企業になること、リスクが低いと評価されることが、株価を上げるベースになると考えられる。このうちキャッシュフローを早く、多く生み出すためには、まず営業利益をはじめとする儲けを早く多く生み出し、それが早くキャッシュになるように、営業債権などの回収を早め、在庫を減らし、キャッシュが必要となる設備投資を効率よく行うことが重要になる。