●顧客の「潜在的な、果たすべき課題」に焦点を当てている
 潜在的な課題(latent job to be done)とは、顧客が実際に直面しているがはっきりと言い表せない重大な問題のことだ。たとえば10年前であれば、中小企業の経営者は「データとアプリケーションを管理・制御する柔軟な方法が必要だ。できればコンピュータ機器の所有による固定費を、容量のレンタルによる変動費に変えたい」と言い表すことはできなかっただろう。だが、それこそまさにアマゾンが気づいた課題だった。そして多くの中小企業が必要としていた「融通の利くクラウドコンピューティング・ソリューション」の開発に乗り出した。ほとんどの経営者は常に柔軟性の向上を求めていると同時に、固定費を変動費に変える機会を探している。このことを考慮すれば、アマゾンの賭けは想像されるほど奇抜ではない。

●実現を後押しするトレンドに乗っている
「実現を後押しするトレンド(enabling trend)」とは、潜在的な課題への取り組みを可能にする、何らかの技術的または社会的シフトである。たとえば高速インターネット回線の普及と低価格化によって、アマゾンはクラウドコンピューティングの技術イノベーションをより広範な市場に提供できるようになった。転換のトレンドをいち早く察知することで、企業はブレークスルーへの賭けにより大きな自信が持てるようになる。

●自社独自の能力をうまく利用しながら製品・サービスを開発している
 じりじりと追い上げてくる多数の新興企業に勝る速さで既存企業がイノベーションを実現したいと願っても、しょせん無理な話である。しかし独自の能力をうまく利用すれば、より優れたイノベーションを生むことができる。たとえば数十年に及ぶ事業運営で獲得してきた、模倣しにくい資産や市場アクセスなどだ。アマゾンは自社のITシステムを強化するためにみずから構築したインフラを活用して、独自のサービスを提供するに至った。

 上記の条件を明確に認識できることはめったにない。そこで、プロクター・アンド・ギャンブルの元幹部で現在はイノサイトのアドバイザーであるデイビッド・グーレイトの賢明なアドバイスを覚えておいてほしい。「特別なことを実現したければ、特別なことをしなければならない。いつものツールを使い、いつものプロセスに従って、いつもと同じことに取り組むならば、当然ながら違いは生み出せない」

 革新的なアイデアを実現することは、塗り絵のような単純作業ではけっしてない。だからといって、大企業はブレークスルーへの思い切った投資をやめるべきではない。世間は新興企業の(迅速なイノベーションという)長所を称えるが、大企業もグローバル規模の課題に取り組める貴重な存在なのだ。たとえば低価格での医療の提供、急増している世界人口への食料の提供、急速な都市化から生じる諸問題への対処などだ。それは容易なことではないが、努力する価値がある。


HBR.ORG原文:How Industry Giants Can Create Corporate Breakthrough September 4, 2013

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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。