なぜ不真面目な学生が学問に魅了されたのか
琴坂 そんな入山さんがなぜ経済学を真剣に学ぶようになったんですか?

入山 大学3年生のときに、木村福成先生(慶應義塾大学教授)のゼミに入ったのがきっかけかな。本当にたまたまでしたけど、木村先生は僕と同じニューヨーク州立大学にいた人なんですよ。木村先生はオルバニー校で、僕はバッファロー校だったけど。日本に帰ってきて1年目のゼミ生が僕たちの世代です。そのときは、この先生は外国人みたいでかっこいいなと思って入ったんですね。そんな気楽な気持ちで入ったゼミでしたけど、それがおもしろくて。僕は木村先生からすごく影響を受けていると思います。
琴坂 そのときのご専門は何ですか?
入山 国際経済学と開発経済学でした。木村先生のご専門でもあります。いま考えると、いまの仕事につながっていると言えばつながっているかもしれない。
琴坂 木村先生からの学びが原点にあるという感じですか?
入山 そうだね、学問の原点という意味ではそうだと思う。その前は自分の気持ちが結構ふらふらしていました。研究には漠然と関心があったんだけどね。留年しそうだったやつが何を言ってるんだと思われるかもしれないけど、ゼミに入る前は経済学なんてつまらないと思っていたから。
でも、木村ゼミに入ってから、初めて経済学を勉強しておもしろいと思ったんですよ。いまでもそうですけど、理論と実証のせめぎ合いがあった。とくに経済学の場合は数式やグラフを使うので、理論を記述してからそれを実証するというバランスがよくとれている。両方がなければ科学ではない、と木村先生に教えてもらいました。
琴坂 それはおもしろいですね。
入山 木村先生は本当にすごかったですよ、学部のゼミなのにとにかく超最前線のことをやってくれるから。海外のトップ・ジャーナルに載っている論文や、木村先生のところにアメリカ時代の友人が送ってくる掲載前のワーキング・ペーパーを配ってくれました。それをみんなで読もうと学部の3年生で読まされるんですね。それがものすごくおもしろかったんだよ。論文の内容なんてほとんどわかってない。でも、わかってないけど、これが経済学という分野の超フロンティアらしいということは理解できた。
琴坂 それってすごく大切なことだと思います。私もいま学部の大学1年生に『アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー』や『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』などに掲載された論文を解説しています。ダイヤモンド社書籍オンラインの連載でも紹介したケンブリッジ大学の食堂を食べ歩きした研究とか。簡単ではないですけど、しっかり話をしてあげると「そうなんだ」とわかった気になって、どんどん頭に入るみたいですね。
入山 大事だよね、それ。わかった気になることはすごく大事。
琴坂 これが世界で認められていることの最前線、最先端だよ。これを理解できるとやっている気になるよねというレベルのものを見せると、結構やる気が出てしまうんですよね。
入山 わかる、わかる。僕もいま早稲田のMBAでまったく同じことをゼミ生にやっています。