マーケティング戦略とポジショニング

 STPの3つ目のポジショニングに関連して、コトラーは、マーケット・リーダーとそれ以外の企業とではマーケティング戦略が自ずと異なると主張した。リーダーの戦略とは、総市場の拡大のために努力を行い、各方面からの他社の攻撃に対抗すべく経営資源を投入し、規模の経済性をさらに追求するものとなる。

 これに対し、チャレンジャーの戦略とは、リーダーの弱い分野を攻撃するものである。ゼロックスが大型コピー機で市場を制圧していた時期に、キヤノンやリコーは小型コピー機を中小企業向けに投入して成功を収めた。一方、フォロワーの戦略とは、リーダーに追随し、模倣するものである。技術開発の投資をしない分だけ低価格が可能であり、リーダーを追い抜けはしないものの、そこそこのビジネスになる。かつてのシャープや三洋電機はフォロワー戦略と呼ばれた。そして、ニッチャー戦略という、小規模な市場をターゲットにして大手企業との競争を避けるという戦略がある。軽自動車に集中したスズキは、かつてニッチ企業であった(今は軽自動車市場自体が大きくなっているが)。

 この4類型も、コトラー独自のフレームワークである。特に2番手以下の企業は、同質的競争に陥ることを避け、独自のポジショニングをとらなければならない。独自のポジショニングの確立に失敗すると、リーダーの反撃に屈する危険性が高くなる。この反撃に歯を食いしばって耐え忍ぶことは不可能ではないが、結果として低利益率が恒常化してしまう。日本企業は低利益率にあえぎながら、同質的競争を続けてしまう。

 昨年の来日時のカンファレンスでコトラーは、「日本にはCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)がいないというのは残念なこと」とも述べている。マーケティングは中間管理職やスタッフによる各論的な業務になってしまっていて、役員クラスのリーダーが全体像を描いていない、というのがコトラーから見た日本企業の姿のようである。

 マーケティング・リサーチによる顧客理解があり、STPに基づくマーケティング戦略があり、その戦略と整合したマーケティング・ミックスを組み合わせる。これがコトラーのマーケティングの全体骨格と言える。この骨格を作り上げたことがコトラーの功績と言ってよい。そして、その骨格を構成する各論の要素として、他の研究者たちの理論が組み込まれていく。各論の要素は時代の流れとともに変化してきたが、骨格自体は50年を経ても変わっていない。スタッフが各論の移り変わりを追いかけるのではなく、CMOが全体像を描くことこそが、コトラーの求めてきたマーケティングの姿ではないだろうか。

※次回は9月5日(金)公開予定。

 

【バックナンバー】
第1回:マーケティング4Pとはコトラーが提唱したものではない

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【お知らせ】

9月24日・25日の二日間、世界中からマーケティングの巨星が結集!

ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2014

日程:2014年 9月24日(水)10:00~18:45(予定)
       9月25日(木)9:30~17:40(予定)
会場:グランドプリンスホテル新高輪「北辰」
登壇:フィリップ・コトラー、デビッド・アーカー、アル・ライズ、ドン・シュルツ、高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社 長兼CEO)、新浪剛史(サントリー顧問 10月1日サントリーホールディングス株式会社CEO就任予定)、吉田忠裕(YKK代表取締役会長)、魚谷雅彦 (資生堂代表取締役執行役員社長)ほか。
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