部下への認識について考えてみよう。マインドレスな状態では、部下の態度や行動に対する思い込みが生まれる。しかしマインドフルネスによって相手の立場を理解すれば、一方的な判断を防ぐことができる。ひとたび相手を「頑固」だと決めつければ避けたくなるが、相手の立場になってみれば「頼りがいがある」とわかり、ありがたく思えるはずだ。あらゆる判断は、このような方法で反転できる(衝動的/自然体、厳格/真面目、迎合/全員の協調を重んじる、など)。これを実践していると、人に対する固定的な判断をしなくなる(誰にでもよい部分と悪い部分がある)。リーダーはすべてを知っているという誤った優越感から自由になれば、これまで早計な判断によって否定的に見ていた者たちのなかから、解決策を提示してくれる人材と能力を見出すことができるだろう。

 部下への認識がどうであれ、最も重要なことがある。もし部下がマインドフルであれば、「部下は率いられる必要がある」という前提に立って彼らを率いる必要はなくなるということだ。マインドフルな部下たちは、状況が何を必要としているかを見極め、驚くほど優れたパフォーマンスを見せてくれるはずだ。

 私がティモシー・ラッセルおよびノア・アイゼンクラフトと共同で行った実験では、複数の交響楽団にマインドレスもしくはマインドフルな状態で演奏するよう指示を与えた(英語論文)。ここでいうマインドレスな演奏とは、過去の自分たちの演奏で最もよかったパフォーマンスを再現してもらうことだ。マインドフルな演奏とは、各自の演奏に、本人にしかわからないほど微妙な変化を新たに加えてもらうというものだ(彼らが演奏するのはジャズではないので、変化といってもごくわずかな違いとなる)。それぞれの演奏を録音し、実験内容を知らない聴衆に聴かせると、マインドフルな演奏のほうが圧倒的に支持された。さらに、演奏者たち自身もマインドフルに演奏するほうを強く好んだ。各自がマインドフルな状態で仕事をした結果、集団の成果が向上したのである。

 私は30年以上にわたる研究を通して、マインドフルネスの強化が次のようなメリットをもたらすことを発見してきた。カリスマ性が増し、生産性が向上する。疲労で燃え尽きることや事故を起こすことが減る。創造性、記憶力、注意力、ポジティブな影響力、健康が増進され、寿命さえ延びる。チャンスが訪れた時にそれをうまく活かせるようになり、事前に危機を回避しやすくなる。これらはリーダーにも部下にも共通するメリットだ。

 部下が物事をうまくやるには背景を知る必要があるため、リーダーは情報を秘匿してはならない。リーダーが全知全能であり特権的な情報を握っているという幻想を維持すれば、部下を従わせ優越感を持つことができるだろう。しかしその代償として、皆がレミング(集団自殺をするタビネズミ)と化すのだ。リーダーのマインドレスネスは部下のマインドレスネスを促進し、幸福と健康を阻害する。それは結局、リーダーと部下、そして組織にとってマイナスとなる。

 全社員がマインドフルである組織を思い描くのは心地よいが、もし可能だとしても実現には時間がかかる。必要なのは、周囲にマインドフルネスを広めることを重要な(あるいは唯一の)役割とするリーダーだ。不確実性をうまく利用する方法を学べば、誰もが目を覚ますことだろう。

(本誌2014年9月号掲載のエレン・ランガー教授インタビュー、「いまマインドフルネスが注目される理由」もぜひご覧ください。)


HBR.ORG原文:A Call for Mindful Leadership April 28, 2010

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エレン・ランガー(Ellen Langer)
ハーバード大学心理学部教授。ランガー・マインドフルネス・インスティテュート創設者。著書に『心の「とらわれ」にサヨナラする心理学』、『ハーバード大学教授が語る「老い」に負けない生き方』などがあり、200を超える論文を執筆。「マインドフルネスの母」と称えられる。