考え抜いた言葉はシンプルでも説得力を持つ
――シュルツ教授の話に戻りますが、留学から戻ってからも、親しく連絡を取り合っていると聞いています。
有賀 帰国して、彼の本を翻訳したこともあって、その後も何かあれば連絡を取り合っています。実際に最後に会ったのは1、2年前ですが、このインタビューのためにメールで近況を尋ねたら、長文の返信をくれました。日本に来られた時は、よく宿泊先のホテルでシュルツ夫妻と朝食を共にしたりします。ただ、話すのは普通の世間話ですよ。共通の知り合いの近況とか、ノースウエスタン大学があるエバンストンという町の街並みがどう変わったか、あそこのスーパーがなくなった、とかですね。
――昔と今で、シュルツ教授が変わったと思うことはありますか。
有賀 私が会った当時と今とで大きく違っていることは、彼の活動範囲がグローバルになっていることでしょう。今年もすでにイタリア、オーストリア、トルコ、オーストラリア、シンガポールに行ったと聞いています。そんな調子で、しょっちゅう海外に出向き、その国の気鋭の研究者と共同研究したり共著で本を書いたりしています。
ちなみに、いまは本を3冊同時に執筆されているそうです。1冊は、イタリア人の教授と一緒に書いているブランディングの本。2冊目はインド市場向けの消費者行動論の本。インド人の先生との共著です。シュルツ先生に言わせると、インドは人口が10億人以上もいるのに、インド固有の事情を斟酌した適切な消費行動論のモデルがなく、欧米の理論がそのまま使われているそうです。そこで、インド市場用にカスタマイズした本を執筆していると聞きました。
もう1冊は、最近の彼のフレームの「SIVA」についてです。たぶん今回の講演でもお話されると思うプランニングのモデルです。Sは「Solution」、Iは「Information」、Vが「Value」、最後のAが「Access」です。
――シュルツ教授は日本のマーケットにも関心を持たれていますか。
有賀 もちろん、日本のことは以前からご関心がありますが、度合いでいうと、インドや中国への関心が高いようですね。中国はかなり以前から注目していたようで、北京には幾度となく行かれています。というのも、長らくマーケティングの世界を席巻してきた、アメリカ型ともいえる直線的なモデルの限界を、問題意識として持っているからです。
数値化することの重要性を説きながら、一方で、現時点では数字で説明できないあいまいな部分の重要性を訴えます。ブランディングは人間の営みであり、ヒューマン・ファクターが大事です。そうしたメカニズムの解明に、アジア市場にはヒントがあるのだと思います。
シュルツ先生は何事もシンプルに言い切ります。また、わからないことはわからないと謙虚に認めます。その前にはそうとう自分で考え、苦悩したプロセスを経ているはずです。だからこそ、彼の言葉には説得力があるのだと思います。
次回更新は9月17日(水)を予定。
【編集部からのお知らせ】
9月24日・25日の二日間、世界中からマーケティングの巨星が結集!
ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2014
日程:2014年 9月24日(水)10:00~18:45(予定)
9月25日(木)9:30~17:40(予定)
会場:グランドプリンスホテル新高輪「北辰」
登壇:フィリップ・コトラー、デビッド・アーカー、アル・ライズ、ドン・シュルツ、高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)、新浪剛史(サントリー顧問 10月1日サントリーホールディングス株式会社CEO就任予定)、吉田忠裕(YKK代表取締役会長)、魚谷雅彦(資生堂代表取締役執行役員社長)ほか。
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