マーケティング部門はどうなるか

 これらの変化は何を意味しているのでしょうか。消費者インサイトの把握がますます難しくなり、マーケティングの打ち手が多様化かつスピード化し、製品とサービスの垣根がなくなる時代です。従来のように企業はマーケティング機能をマーケティング部門に収めておくことができなくなるのではないでしょうか。

 その予兆は現われています。すでにIT部門とマーケティング部門の融合が大きな課題となっており、弊誌の最新号でもCIOとCMOを統合した役割の必要性が語られています。製品・サービスの開発部門などの川上から、営業やカサタマー・サポート部門といった川下に至るまで、すべてのプロセスでマーケティング抜きに仕事ができなくなるでしょう。つまり、マーケティング部門が企業の組織図においてより基幹的な位置づけ変わるはずです。究極的には、プロセスの常識として組み込まれるレベルに至った企業では「マーケティング」という言葉のついた部署がなくなるかもしれません。ネスレ日本の高岡社長は最新号で寄稿された論文でも、間接部門を含めた企業全体が価値創造活動である、と書かれておられます。

 かつて企業のグローバル展開が小さかった時代、英語のできる人は「海外事業部」などにしかいませんでした。英語は特異なビジネススキルの一つと見なされ「専門家」として扱われていました。しかしいまや英語は部署や業種に関わらず求められるスキルとなっています。これからマーケティングスキルも、ビジネスパーソンの「マストアイテム」になるのではないでしょうか。生産管理であろうと、経理であろうとマーケティングを知らないと困る時代。先ごろ資生堂では、技術部門や間接部門にまでマーケティング教育を実施していく方針が発表されました。まさに全社でマーケティングを導入しようとする動きを象徴しています。

 逆に言えば、マーケターがもっとも変化を強いられるかもしれません。すでにウェブを熟知しないマーケターは活躍できる範囲が狭くなっています。ファイナンスを知らないマーケターは、マーケティングROIを理解できないでしょうし、生産工程を知らずにマーケティング施策の変更ができない時代になるでしょう。マーケティングが企業の中核に位置付けられるのは、「顧客の創造」が企業の目的であると説いたドラッカーの教えと一致する世界です。そこでは、マーケターはますます総合的なマネジメント能力が求められるでしょう。(編集長・岩佐文夫)