早稲田大学ビジネススクールの教授陣がおくる人気連載「早稲田大学ビジネススクール経営講座」。5人目にご登場頂くのは、金融仲介論と企業金融がご専門の樋原伸彦准教授だ。いま日本でも注目を集めているコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)について考える。
日本企業も実感するCVCの重要性
楽天、フジテレビ、TBSが同じ種類の子会社を作っている。これらの企業が、いまほぼ同時に同じ方向に舵を切り始めたのは決して偶然ではない。これらの子会社は、いわゆるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)と言われるものである。2006年のライブドア・ショック当時から言われていたテレビとネットの融合にとどまらず、これら日本のメディア企業、 IT企業も、今更ながら自社だけでビジネスを大きく展開することの困難さに気づきつつあるのだ。周回遅れながら、日本企業もようやくCVCの必要性を痛切に感じ始めている。
CVCとは何か

樋原 伸彦(ひばら・のぶひこ) 早稲田大学ビジネススクール准教授。1988年東京大学教養学部卒業、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。世界銀行コンサルタント、通商産業省通商産業研究所(現・経済産業省経済産業研究所)客員研究員、米コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所助手、カナダ・サスカチュワン大学ビジネススクール助教授を経て2006年立命館大学経営学部准教授。2011年から現職。米コロンビア大学大学院でPh.D.(経済学)を取得。専門は金融仲介論とコーポレートファイナンス。主な著書に『ハイテク産業を創る地域システム』(有斐閣) 2011がある。
CVCとは技術色の強い事業会社が自社の資金を提供し、ファンドを組成し、自社の事業となんらかの関連性のある企業(特にスタートアップ企業)に投資していこうとする組織である。組織形態は個々のCVCによって様々である。最も一般的なのが、事業会社の子会社としてまずCVCをつくり、そのCVCがGP(ジェネラルパートナー)となり、LP(リミッテッドパートナー)として事業会社が出資し、通常のベンチャー・キャピタル(VC)と同様にCVCファンドとして活動する場合である。しかし、後述するインテル キャピタルのようにファンドの形式をとらずに活動している有名CVCも多い。
組織形態は重要ではあるが、どのような形態をとるかでCVCの機能が規定されてしまうわけではない。むしろ、事業会社がどのような動機付けでCVC活動を企図しているのかが、より重要である。CVCを語る場合、Strategic Return(事業会社の既存事業と投資先スタートアップ企業の事業の間になんらかのシナジーが生じること)とFinancial Return(CVCファンドがあげる投資リターン)のどちらを優先すべきかという議論がしばしばなされる。
通常、CVCは親会社である事業会社のパフォーマンスに寄与することがその存在意義の第一であり、その意味ではStrategic Returnを優先しているはず、というのがコンセンサスではある。しかしながら、Strategic Returnの量的な計測はなかなか難しく、数字としてはっきりでてくるFinancial Returnも併用しなければ、成果の測定やCVCにたずさわる人材の動機付けの両面において問題が生じやすい。すなわち、Strategic Returnしか当社は考えていません、というコメントは、往々にしてCVC投資による成果が出てない場合の言い訳に過ぎない場合が多いからである。