上司との関係は職務体験を大きく左右する。ネガティブで周囲と共鳴しない上司に、どう接すればよいのか。EQに基づくリーダーシップ論で知られるリチャード・E・ボヤツィスが、神経科学の観点から「無関心上司」への対処法を解説する。
リーダーシップに関する私のMOOC(大規模公開オンライン講座)に登録している25万人の人々から、最も頻繁に尋ねられる質問がある。「無関心なうえにネガティブな上司に、どう対処すればいいでしょうか?」。ここでの「無関心」とは、自分自身、他者、そして周囲の環境への関心を失ってしまっているという意味であり、けっして珍しいことではない。こうした上司はネガティブ、自己中心的、数字のことしか頭にない、というような印象を与える。そして部下たちは、自分が人間としてではなく単なる労働力のように扱われていると感じる。
このような人物が管理職でいられるのはなぜだろうか。その無能さや無礼な振る舞いを周囲が大目に見てしまうのは、その人が「レインメーカー」(大きな儲けをもたらす存在)と目されているためかもしれない。たとえば、過去最大の顧客との契約を取り付けた人物であったり、親が会社の大株主だったりするケースだ。また、会社の規範のために彼らを許してしまうこともある(例:過度に分析的であっても許される風土)。あるいは会社の方針のせいで、不適任者を辞めさせるのが困難なこともあるだろう。
今日これほど多くのMBAプログラムや管理職研修があるのだから、状況は改善されていてもおかしくないと思う読者もいよう。しかし悲しいかな、実証研究の結果はその逆を示唆している。そうした研修プログラムは分析作業を重視することが多く、新しいアイデアを受け入れる能力を閉ざしてしまうのだ。以下に説明しよう。
有能なリーダーやマネジャーでさえ、時が経つにつれて冷淡になってしまうことがある。つまり、他者やクライアント、周囲の環境と乖離してしまうのだ。その主な理由は、分析的になりすぎるからである。データや数字、問題の分析ばかりに集中しているのだ。そういう時に活発になる神経回路はTPN(タスク・ポジティブ・ネットワーク)と呼ばれ、何かに集中する、問題を解決する、意思決定を行うというような時に役に立つ。しかし神経科学の研究によれば、このネットワークを頻繁に活動させると、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)の働きを抑制してしまう(英語論文)。DMNは、新しいアイデアや人を受け入れたり、倫理的な課題を扱ったりする時に重要な役割を果たす神経回路である。そしてDMNが抑制された人は、周囲の人々に注意を向けるのが難しくなるのだ。
上司が無関心なのは、その性格がネガティブであったり、自己中心的であったり、あるいは単におびえて身構えているからかもしれない。どれも不適切な振る舞いを正当化するものではないが、なぜそうした行動パターンに陥ってしまうのかを理解することは有益だ。慢性的なストレスや防御的な態度によって、自分を再生する能力が衰えてしまい、親切さや快活さ、ひいては仕事の能力も大幅に失ってしまうのだ。