米国の名門大学の卒業式には、毎年著名人がゲストに招かれ、感動的なスピーチが繰り広げられる。2014年の卒業式より、シェリル・サンドバーグ、スティーブ・ブランク、イエレンFRB議長、メアリー・バーラ、サルマン・カーンらが未来を担う若者たちに贈ったメッセージを、HBRのエディターが精選しお届けする。
大学の卒業式に招かれたゲストスピーカーが直面する、とてつもない難題とは何だろうか。それは、長話で退屈させることなく、卒業生をインスパイアし、アドバイスを授け、楽しませることだ。ユーチューブ全盛のこの時代、講演はネット上ですぐに拡散されてしまう。また、講演がきっかけで1冊の本に結実することもある(例:シェリル・サンドバーグは2011年にバーナード大学の卒業式で、女性に野心を追求するよう呼びかけ、2年後に『リーン・イン』を出版)。だから、スピーチの原稿をつくる時はいっそうプレッシャーがかかる。さらに、今年演壇に招かれた人たちは、学生側の反対により数人のスピーカーがキャンセルを余儀なくされたという事実も気にかけていたのは間違いない(英語記事。コンドリーザ・ライス、IMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルドなど)。
このような状況を鑑みるに、スピーカーたちが似たようなテーマに落ち着くのも無理はない。「夢を大きく持て」、「失敗は成功への道程の一部」、「あなたたちの世代は、救いを必要としているこの世界の救世主」といった具合だ。しかしこれらに他のテーマも織り交ぜて、独自のユニークなひねりを加えたスピーカーもいる。たとえばイエレンFRB議長は、前任者のベン・バーナンキに関する印象的なエピソードを披露し、サルマン・カーンは利益追求の動機について歴史的な観点から語った。ヨーグルト・メーカー、チョバーニの創設者ハムディ・ウルカヤは、CEOに就任して最初に通達した風変わりな指示を述懐している。
2014年の卒業記念講演から、ビジネスやキャリアの成功に役立つ選りすぐりの金言を、かいつまんで以下に列挙してみたい。
最大の難関は、最初の一歩を踏み出すこと
●シェリル・サンドバーグ (フェイスブックCOO) シティ・カレッジズ・オブ・シカゴでの講演
「大きな夢というのは、時に持て余してしまうものです。A地点からC地点に行くのはとても無理だ、という感じです。でも大丈夫、そうする必要はありません。まずはAからBに行けばいいのです。その後、BからC、さらにその先へと順を追って進むのです。大きな夢を小さなステップに分けることが、夢を実現する最善の方法です。まずは自分がどこにたどり着きたいかを考えましょう。そして目標を高く掲げ、進むべき方向に向かって最初の一歩を踏み出すのです」
●ハムディ・ウルカヤ(チョバーニCEO) ニューヨーク州立大学オールバニ校での講演
「私にとって初の取締役会での出来事です。あたかも私が魔法の答えを持っているかのように、皆が私を見つめていました。そのうちの1人、マイクが『さて、どうしましょうか』と尋ねたので、私はこう答えました。『ホームセンターのエースで白いペンキを買ってきて、(この工場の)外壁を塗ろう』。するとマイクが、『この15年間、外壁は塗り直さずに済んでいます。他に何か心配することはないのですか?』と言ったので、『あの壁は見栄えが悪い。何らかの手を打つ必要がある』と答えました。それでもマイクは『壁を塗ること以外に、何かプランはないのですか?』と食い下がったので、私は『ない』と一蹴しました。ところが皆さん、私が2005年の夏に実行したことで、最もよかったことの1つが外壁のペンキ塗りだったのです。当時の私は、多くの答えを持ち合わせていませんでした。しかしあの夏、ペンキを塗っている最中に、ビジネスのアイデアが次々と浮かんできたのです。トルコに住んでいた(イスラム神秘主義の)詩人ルーミーは、『歩き始めれば、道は現れる』と述べています。私の『ペンキを塗ろう』という発言はルーミーの言葉ほど含蓄がありませんが、まさにチョバーニの第一歩となったのです」
(HBRのウルカヤ氏インタビュー記事〈未訳〉はこちら)