多様な株主に応じた
多様な権利を与えることが必要

「ハーバード・ビジネス・レビュー」最新号の特集タイトルは「投資家は敵か、味方か」となっていますが、本来、企業にとって敵であるはずがありません。しかし、多様な株主の存在に悩まされているのも事実です。

 株主の資金はリスクマネーで、元本が保証されず精算時の返済も最劣後に位置します。その株主の存在を最重視することで、その他のステークホルダーである、取引先や従業員の利益も同時に達成できるという考え方が基本にあります。

 しかし株主の中には株価の変動に素早く対応して利ざやを稼ぐことを目的にする人もいます。このような株主は、短期で売り買いすることも珍しくありません。今号での佐山展生さんの論考では「通行人」と呼ばれる株主ですが、このような短期志向の投資家の声にどこまで経営者は応えるべきでしょうか。

 短期的な利益も当然ですが、長期的に企業価値を向上させるのが経営者の務めです。株主のその時々の要求に応えていくことで、経営者が長期的な価値向上に努めなければ、企業の成長に投資する株主の期待を裏切ることになってしまいます。

「株主」という言葉で、現存する多様な思惑をもった投資家をひとくくりにすることに限界を感じます。

 社会のなかで企業が誕生し成長する過程で、今後も株主の重要性は変わりません。しかし雑多な株主を同列で語ることで、本来、目指すべき企業価値の向上の足かせとなることが多いのも現実です。グーグルやフォードなど一部の企業では保有する株数と議決権が対応しない仕組みを作っています。このように、株主の多様な思惑に対応する、多様な権利の与え方もより積極的に検討されてしかるべきではないでしょうか。(編集長・岩佐文夫)