ブラインドサッカーの仕掛け人は
グローバルリーダーのひとり
ブラインドサッカーがここまで知名度を高めるようになった陰には協会スタッフの地道な啓蒙活動が存在する。日本ブラインドサッカー協会事務局長の松崎英吾さんは、2002年にこのスポーツの普及に関わり、2007年にそれまで勤めていた会社を辞め、協会の事務局長に就任した、いわば社会起業家のひとりである。そこから広報活動、スポンサー集め、さらに競技人口の増加などの活動に取り掛かった。
普及を阻む壁はいくつもあった。ブラインドサッカーの敵は「音」である。選手はコーラーなどの声を頼りにゲームをするため、騒音の激しい場所は適さない。また「障がい者のための」スポーツと見られることの戸惑いもあった。それは松崎氏自身「プレーする魅力、観戦する魅力」を伝えたいと思ってきたからだ。ハンディキャップのある人の生活向上はもとより、スポーツとしての普及が目標である。
次第にスポンサーがつくようになり、日本代表チームの海外遠征も増え、代表チームの力も向上してきた。一方で、世界の仲間からの信頼を集めるようになったことから、今回の世界選手権のホスト国として認められるようになったのだ。
21日の試合で日本の優勝がなくなり、松崎さんの落胆も大きい。それでも「この大会ですでに満員御礼となった。世界のブラインドサッカーの大会でも珍しいことなんです」と胸を張る。
ブラインドサッカーを国内でここまで認知させ、かつ世界で日本のプレゼンスを認められるまでに育てた松崎さんは、明らかに日本人のグローバル・リーダーのひとりである。
「視覚を失った人がわざわざサッカーをやらなくてもいいのでは」と感想をもらす人の気持ちも分かる。一方で、そもそもスポーツとはわざわざやらなくてもいいものである。「健康のため」は競技としてスポーツをする理由にはならず、かえって怪我とその後遺症に悩まされるリスクが高い。それでも人はスポーツをするのはその刺激が他の娯楽に代えがたいからであり、観戦するのは真剣勝負に伴う興奮があるからだ。
サッカーの面白さも、器用な手を使っていけないという不自由な制約があるからである。視力を使わないという制約は、その延長に過ぎない。制約があるからこそ、創造性が自ずと生まれるし、自由とは制約の中で掴み取るものだ。
大会は24日(月)まで行われる。準々決勝で敗れた日本の試合もあるし、強豪ブラジルのプレーは驚愕ものらしい。どなたにでも観戦をお勧めしたいが、独自の観戦ルールを忘れずに。それはプレー中は「静かに」観戦すること。観客の声は選手のプレーの最大の障害である。
一方で、このルールを守るのは意外と難しい。シュートチャンスに「いけっ!」と叫ぶ衝動を抑えなければならないのだ。これは人間の生理に反している!!!これまた観戦者も制約を楽しむ心構えを求められているようだ。(編集長・岩佐文夫)