ローゼンバウムは科学的心理学会(APS)のインタビューで、次のように説明している。「被験者たちは運動量のことも考えはしましたが、精神的な負担の軽減をより重視しました。バケツをゴールまで運ぶ、という最終的なタスクを早く完了したいがために、部分的なタスク――バケツを選んで持ち上げること――を先に終えたいと思ったのです」(英語サイト)。より大きな課題を遂行するなかで、最初のステップを早く終えて作業記憶から取り除きたいと願った。その気持ちがあまりに強かったために、結果的にはかえって困難な作業を選んでしまった――これがローゼンバウムらの説明だ。

 私たちは仕事を進める時、さまざまな形で早まった行動を取ってしまう。あなたはタスクを早く終えようと急いだ挙句、ありふれた間違いを犯し、戻って修正したことはないだろうか。職場に着いて性急に仕事に取りかかる前に、今日の8時間を最も有効に使うにはどう仕事を進めるべきか、数分かけて計画を練ることはあるだろうか。To Doリストの中で、まず簡単な作業から片付けていくのか、それとも一番重要なタスクから取り掛かり、最もエネルギーが充実している時間帯をそこに費やすだろうか。メールへの返信や単純なタスクに1日のほとんどを費やしているうちに夕方5時になり、気づけば自身や組織にとって真に重要な仕事が進んでいない――こんな経験はないだろうか。

 簡単にできることから片付けていくという作戦は、短期的には生産的に感じられ、小さな進捗を重ねることでやる気の持続につながるかもしれない。しかしローゼンバウムの研究チームが示唆するのは、急いでタスクを終えようとすれば往々にして、修正のために後戻りすることになり、結局は時間のムダになるということだ。迅速な遂行にエネルギーを注ぐよりも、時間をかけて取り組んで質を高め、修正を減らすほうがよいのかもしれない。

「ためらう者は敗れる」という格言を信じたくなる時もあるだろう。しかし研究が示すように、少しばかりためらう時間を持てば仕事は速やかに完了し、質も高まり、結局は生産性が上がるのだ。


HBR.ORG原文:The Irresistible Allure of Pre-crastination August 13, 2014

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デイビッド・バーカス(David Burkus)
オーラル・ロバーツ大学の助教授。経営学を担当。リーダーシップ、イノベーション、戦略のアイデアをシェアするLDRLB(リーダーラボ)の創設者。著書にThe Myths of Creativityがある。