日本が目指すべきモデルは、アメリカからスイスへ
日本がスイスから学べそうな点はいくつもあります。ここでは3つ上げたいと思います。
1つ目は、どの企業や産業でも付加価値の高い製品やサービスで競争優位を築いていることです。医薬品や時計に代表されるように、高い品質とブランドでどの産業でも高付加価値の製品で成功しています。低価格あるいは中価格帯の商品では、労働賃金が圧倒的に安い国に敵わないからです。リンツのチョコレートや時計、ホテルなどでもカテゴリーの中での最上級に位置するブランドです。
2つ目は、ホスピタリティの高さも生かして観光大国を築いた点です。スイスは恵まれた自然を背景としたものと思われがちですが、その昔は雪に囲まれた退屈な国と見られていました。それを観光立国に変貌させたのは、持ち前のホスピタリティの精神であり、そこからホテル産業が生まれ、いまでは世界屈指のホテル大学もローザンヌに持ち、ホテル産業のメッカとなりつつあります。
3つ目は品質にこだわる点です。伝統的にスイス企業は品質の重要性を熟知しており、職人の育成にも力を入れ、時計などがあれだけの価値をもたらしたモノ作りへのマインドが育っています。そして長期的な視点で事業の成功をめざします。ネスレが開発したネスプレッソは事業として成功するまで10年を要したそうです。
資源に乏しい点も日本と類似しており、これらの「スイス・モデル」は政府主導でできあがったのではなく、民間部門の自主的な活動に追うところが大でした。日本企業も政治を言い訳にできません。
もちろん、スイスと日本では相違点も多々あります。海に囲まれた日本と、大国に囲まれていると言え欧州の中心に位置するスイス。その地理的条件から他国からの移民が多い点も日本とは異なります。
しかし人材の力を軸に、国土も大きさも資源にも恵まれない国がグローバル経済で地位を築いたスイス。ここに日本はもっと学ぶべきではないでしょうか。本書はスイスの強さを紹介するものでありますが、日本の課題とその解決策を考える格好の書となっています。(編集長・岩佐文夫)