CSVを提唱したマイケル・ポーターが2011年に発表した論文「共通価値の戦略」には、実はいくつかの矛盾が存在する。しかし、たとえ論文自体に曖昧さが残ったとしても社会的価値と経済的価値の両方を追求するほうが、企業の統合的価値も大きくなると岡田正大氏は指摘する。従来の株主価値の向上を目的とする企業の前提を見直すべきか。企業観自体を問い直すべきか。過去の文献などをひも解きながら、CSVが企業戦略論に与える影響とその可能性について論じていく。

戦略理論をめぐる環境変化

 企業の持続的競争優位の源泉がはたして、マイケル E. ポーターの主張する業界構造にあるのか、それともジェイ B. バーニーの言う個別企業ごとに特殊な経営資源に宿っているのか。戦略理論の進化において大きな軸となったこれら両論の相互補完と対立関係について、筆者は本誌2001年5月号に「ポーターvs.バーニー論争の構図」という論考を寄せた。それから13年が経過し、戦略理論をめぐる状況も当然ながら変化した。

 昨今の企業戦略上のテーマとして取り上げられる機会が多いのはポーターとマーク R. クラマーによる「共通価値」の概念である。それが企業戦略を取り巻くいかなる環境変化の下で登場し、既存の戦略理論にいかなるインパクトを与えるのか。