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ナイキの取締役会の取り組み
急成長するスポーツ・アパレル企業の年次株主総会が開会する直前、取締役の1人とCEOが二言三言話をしていると、会場の後方に労働運動家の一群がいるのが目に入った。アジアの下請け工場の労働条件について抗議活動を繰り広げる面々である。CEOは取締役のほうに向き直ると藪から棒に、「予期せぬ混乱が生じた場合には、あなたに株主総会を仕切っていただこうと考えていました」と告げる。総会の途中で活動家たちがまるで進撃するかのように会場の前方に歩み出てくると、CEOはこの言葉をそのまま実践した。
取締役は、企業行動に関連する難題にはしばしば直面するが、このように矢面に立たされる例は稀である。しかし、ジル・カー・コンウェイは1996年にナイキの株主総会で矢面に立った。スミス・カレッジ(アメリカマサチューセッツ州にある名門女子大学)の元学長にしてスポーツ好きを自認するコンウェイは、女性の地位や権利をめぐる諸問題に深い見識があるほか、学生の視点を理解している点を買われて、1987年に当時のCEOフィル・ナイト(現取締役会長)の要請でナイキの取締役に就任していた。
幸いにもコンウェイにとっては、ナイトから総会の議事進行を託されたのは青天の霹靂ではなかった。というのもその数カ月前にはナイトに、「下請け工場での労働問題が株主総会で槍玉に挙げられるだろうから、取締役のうち少なくともだれか一人はその問題について自分の言葉で語れるようにしておくべきだ」という考えを伝えてあったのだ。その際に、母国オーストラリアへ旅する予定があるから、その途上で東南アジアに寄り、ナイキの下請け工場を訪れてもよいとも言い添えてあった。