グローバル化がもたらす様相を考える際、リチャード・フロリダが提唱する「クリエイティブ・クラス」の発想は欠かせない。フロリダの集大成ともいえる『新クリエイティブ資本論』から読み解く、東京の課題とは。
情報がいきわたることで、クリエイティブ層の集積が進む
2005年に出版されたトーマス・フリードマンの『フラット化する世界』を読んだ時のインパクトは忘れられません。本書の冒頭では、15世紀にコロンブスがアメリカ大陸を発見して「世界は丸い」と言った話しを出します。そして21世紀の今、アメリカ企業のコールセンターがインドに設置され、ニューヨークからの顧客の電話をインドで時間差なしに対応する様子などを引き合いに出して「世界はフラットになった」と本書の主旨を宣言します。
この「フラット化」の現象はいたるところで実感できます。いまや海外出張に行ってもメールがつながるので、「返事が遅くなります」が言い訳にならない時代になりました。日本の一般市民のSNSの投稿が世界中で話題になるなど、情報の流れはかぎりなく水平になりつつあります。
この「フラット化」に対し、グローバル社会の様相を示す逆の概念もあります。それがリチャード・フロリダの「クリエイティブ・クラス」です。この概念は2001年から提唱されていますが、最近、フロリダの集大成ともいえる書籍『新クリエイティブ資本論』が刊行されました。
経済学者のフロリダは、グローバル化で今後もっとも必要とされる資質はクリエイティビティ(創造性)であり、創造性がどこで生まれどこに集積されるかが競争優位になると考えました。そして、創造性を武器に報酬を得る人たちを「クリエイティブ・クラス」と命名しました。
彼らは広く知識労働に従事する人たちであり、科学者や小説家、アーティストなどから、医師や弁護士なども含まれます。そしてクリエイティブ・クラスは同類の人を引きつける。そしてグローバル化が進むことでクリエイティブ・クラスの集積は進み、彼らの集まる都市こそ競争力を獲得していくと主張します。
人が人を呼ぶという現象には枚挙に暇がありません。グーグル会長のシュミットも著書で「Aクラスの人はAクラスの人を集めるが、Bクラスの人はCクラスの人まで呼び寄せる」という内容のことを書いています。
早稲田ビジネス・スクールの入山章栄准教授も、起業がどこで起こるかに着目し、グローバル化で起業の発生地域は集積していることを「スパイキー(spiky)」、という言葉で紹介しています。シリコンバレーを見ればこの現象はよく理解できるでしょう。ヒューレット・パッカードがガレージから起業して以来、いまなお世界最先端のIT産業を生み出す集積地になっています。