従業員は1日の中で疲労を溜めていくと、職務規定を無視しがちになることが定量調査で明らかになった。マネジャーは職場の安全や倫理を保つうえで、休憩の重要性を改めて認識すべきかもしれない。

 

 きつい勤務環境で長時間働けば、確実に疲労困憊する。だが新たな調査によれば、職場でハードな1日を過ごすことにはもう1つの隠れた代償があるという。すなわち、二次的な作業――さほど目を引かず上司にも声高に称賛はされないが、組織の安全や倫理を保つうえで不可欠な作業――を怠ってしまうのだ。

 ただし若干の朗報もある。十分な休憩を定期的に取れば、事態を大きく改善できるようだ。

 アメリカ心理学会が発行する『ジャーナル・オブ・アプライド・サイコロジー』誌に掲載された新たな論文は、「1日を通して仕事の負担が蓄積していくと、ルールの順守状況にどう影響が及ぶのか」を初めて測定している(英語論文)。共著者たち(ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのヘンチェン・ダイとキャサリン・ミルクマン、ノースカロライナ大学チャペルヒル校キーナン・フラグラー・ビジネススクール教授のデイビッド・ホフマンとブラッドレイ・スターツ)は、以下の仮説を立てた。

●勤務時間が長引くにつれ、従業員は「職務規定」(サービスの質や信頼性、安全性を保つために組織が設けている作業標準。病院でいえば手洗い励行など)を次第に順守しなくなる。

●職務規定の無視は、「仕事の負荷」(仕事の量や頻度、緊急性、難易度が高まることで生じる大変さ)の増大によって、あるいは多くのシフトを通しで働き続けた後に、いっそう顕著になる。

●シフトの合間に休憩を取れば、作業に戻った時に職務規定を順守する傾向が高まる。

 上記の仮説はすべて実証された。

 仮説を検証するために、研究者らは病院における手指衛生の実態を追跡調査した。その理由は次の3つである。①手指衛生は感染リスクを減らすうえできわめて有効な方法である。②病院での仕事はきつい(負荷が多い)うえに、しばしばシフトが長時間に及ぶ。③手洗いは不可欠ではあるが、看護師や医師の本来の作業とは見なされない場合が多い。

 調査では、病院の従業員によるハンドソープや手の除菌用ローションの使用状況をRFID(ICタグの情報を無線通信で識別・管理する技術)によって測定する〈プロベンティクス〉というモニターを用いて、37の病院に勤務する4000人超の医療従事者のデータを収集・分析した。手指衛生を実施すべき機会は合計で1428万6448回を数えた。だが大多数の従業員はこのルールをまったく順守しておらず、また1日における順守状況は時間の経過とともに悪化していた。論文の筆頭著者で博士課程5回生のヘンチェン・ダイに直接取材したところ、こう答えてくれた。「最初に生データをプロットした時、驚きました。手指衛生の実施状況は単一のシフト内で、明らかに、そして着実に低下していたからです」