人材獲得の競争から人材輩出の競争へ

 そしていま。第3期とも呼ぶべき新たな潮流の出現を感じます。逆説的ですが、優秀な人材の獲得より、優秀な人材の輩出が注目されるようになると思います。これは企業名を挙げた方がわかりやすいでしょう。人材輩出企業というと、多くの人は、マッキンゼーやリクルートを思い浮かべると思います。それぞれの個人のお名前を挙げるときりがなく、両社に所属していた方が起業したり、NPOを立ち上げたり、他の企業の経営者になったり、はたまた教育や医療といった分野での活躍する例に枚挙に暇がありません。

 そして、優秀な人材を輩出しているという事実が優秀な人材を引きつける強力な磁力として働いていることは間違いありません。

 どの企業も優秀な人材がほしい。ましてや優秀な社員はずっと自社に留まっていてほしいというのが心情です。しかしその優秀な社員が流出することが、新たな優秀な人材を引きつける要因となる。このサイクルを見逃してはいけません。

 ではどのようにすれば人材輩出企業になれるのか。当たり前ですが、優秀な人を獲得することが大きな要素ですが、それだけで不十分です。そもそも「地頭がいい」だけでビジネスで成果を出せるわけでもなく、優秀な人材とは卓越した価値を事業でつくり出した人です。やる気と能力のある人が、実際に仕事の現場で価値を出すことで優秀な人材が生まれます。そのような仕組みが社内にないと優秀な人材は育たないのです。

 マッキンゼーやリクルートの人材育成システムを詳しくは知りませんが、在籍していた人の話しを聞くと「鍛えられた」という言葉が頻繁に出てきます。しかも1年目から相当負荷をかけられて、仕事に向き合う姿勢や思考法を叩き込まれる。こうして入社前からあったやる気や能力がさらに膨らみ、その活用の場を求めて社外に出る、というパターンが多いようです。

 優秀な人材の輩出に目を向けると、再び人材育成の重要性が浮上します。しかし、その意味合いは従来とは異なります。それは自社にとって優秀な人材を育てる発想から、外部でも通用する優秀な人材を育てる発想への転換です。このスケールの大きな発想は一見、遠回りに見えますが、実は自社の人材の質を向上させ組織のレベルを底上げする装置にもなります。

 今後企業は、「どれだけ優秀な人材を社会に排出したか」を自社のKPI(重要な経営指標)の一つに加えてもいいかもしれません。(編集長・岩佐文夫)