面識のある人が、知り合いに変わる瞬間とは

 そもそも、私とNさんとの出会いは、弊誌の読者交流会でした。初対面のNさんは、弊誌を熟読されており、自分なりの読んだ感想を明確に語ってくれるとともに、私に多くの質問をしてこられました。聞かれる質問から、こちらは彼の問題意識が自然と頭に入ってきます。

 Nさんは私の話しもよく覚えてくれていて、関連する話しがあるとその都度メールをくれるようになり、やがて人の紹介までしてくれるようになったのです。

 先日、ある講演会に行ったところ、会場でNさんの顔を見つけました。この日の登壇者の方は私の知り合いでありNさんの関心に近い方だったので、おふたりを引き合わせようと思い、講演後にNさんを探していたら見つかりません。気がつくとNさんは、すでに講演者と熱心に話し込んでいました。後から聞くと、「講演を聞いていて自分の考えをぶつけてみたくなった」と語っておられました。

 それを見て、Nさんが濃い人間関係を築ける一旦がわかったような気がしました。Nさんは知り合った人と、名前や会社名だけでなく、考え方や問題意識を交換し合っているのでしょう。

 お互いを知る最も効果的な方法は仕事を一緒にすることです。仕事の進め方や立場の違い、あるいはコミュニケーションの取り方の違いから、違和感や共感もふくめ多くの気づきが得られます。しかしNさんのように仕事をしないでも「薄くない関係」を築くことができるものです。

 先日、イベントのトークショーで、ある雑誌の編集長Tさんとご一緒させていただきました。Tさんとは以前一度だけ面識があったのですが、それ以上でも以下でもありません。トークショーの最初は自分の意見を言う際に、Tさんの立場を気にしていたのですが、すぐに、Tさんと私とは問題意識や価値観が似ていることに気づきました。

 まったく違う雑誌を編集しているのにも関わらず、共感できる内容ばかり。心から楽しめたひとときで、イベント終了後には、一緒に一つの仕事を完成させたような爽快感がありました。面識のあったTさんが、「知っている人」に変わった瞬間を実感しました。(編集長・岩佐文夫)