意欲的なイノベーターにとっては、正しい答えを出すだけのシステムよりも「適切な問いを発するためのシステム」のほうが役に立つ。私の近刊The Innovator’s Hypothesis: How Cheap Experiments Are Worth More Than Good Ideas (イノベーターの仮説 安価な実験は優れたアイデアよりも価値がある)では、次のことを主要テーマとしている。価値の高いビジネス仮説に基づいて、迅速・低コスト・拡張可能な実験を行う能力は、イノベーションを成功に導くための新たなコア・コンピタンスとなりつつある。
企業が顧客やチャネル、使用状況、苦情、ソーシャルメディア等に関してますます多くのデータを集めていけば、やがて人間による分析と最適化だけでなく、機械が「イノベーション仮説」を生成する光景が見られるだろう。それは検証すべき新たな構造、バンドル、機能、価格体系、ビジネスモデルなどを勧めてくれる。ブレークスルーをもたらすイノベーションの仮説は、人から生み出される必要はない。むしろその可能性は低いと思われる。
大きなインパクトを目指すイノベーターたちは、みずからの創造性やイノベーション能力を引き出すために、AHの助けを借りたひらめきやインサイトにますます頼るようになるだろう。イノベーションの課題は、データを精査して興味深いパターンを見つけることではなく、仮説の選定となる。高い価値を生む新たな製品、サービス、プロセス、ユーザー体験などを実現するために、どの仮説に基づいて早急に創造的な実験を行うか――それが重要となるのだ。イノベーションの取り組みにおける、AHの活用者と現実世界での実験者との協働は、企業文化にも影響を及ぼしていくだろう。
今後、自動仮説と予測分析とは必然的に組み合わされていくことになる。エンジニアやデザイナーから、マーケターや投資家までを興奮させるAHは、ソフトウェア・サイエンスにも匹敵する高度なコンピュータ技術である。それはまるで、顕微鏡や望遠鏡、MRIが「これは面白そうですね。○○を試してみてはどうでしょう?」と話しかけてくるようなものだ。
もちろん、AHと機械学習が組み合わされるようになれば、ますます面白く革新的なことが起こる。とはいえこれも、1つのビジネス仮説にすぎないのだが。
HBR.ORG原文:Let Data Ask Questions, Not Just Answer Them October 8, 2014
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マイケル・シュレーグ(Michael Schrage)
マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメントのリサーチフェローセンター・フォー・デジタル・ビジネスに所属。著書にSerious PlayおよびWho Do You Want Your Customers to Become?、近刊にThe Innovator's Hypothesisがある。