⑩切替コスト・ニッチ

 製品・サービスの規模が小さいだけでなく、当該市場に参入するための壁があったり、既存客が製品・サービスを切替えるコストが大きい場合、リーダー企業は同質化をしかけにくい。こうした戦略を、「切替コスト・ニッチ」と呼ぶ。クオリカプス、ホギメディカルの手術キット製品などがあげられる。

 クオリカプスは、塩野義製薬と米国イーライ・リリーの出資で創業され、2013年に三菱ケミカルホールディングスが株主となった。同社は医薬品のカプセルの製造業であり、カプセルの製造は世界で3社しか行っておらず、現在世界で2位である。カプセルのコストは、医薬品の製造コストの中ではそれほど大きくないが、同社は高い利益率を上げてきた。

 利益率が高ければ大手企業が参入してきてもおかしくないが、その壁となっているのが、認可である。医薬品を販売するためには、各国で規制当局から認可を受ける必要がある。カプセルを別のものに変更すると認可の取り直しとなり、このコストは馬鹿にならない。また、新規参入業者からカプセルを仕入れた場合に、万一その品質に問題があると、医薬品会社が負うべき被害者への賠償、訴訟リスク、風評リスク、回収コストは多大である。 

 そのため切替えを狙う新規参入業者もなく、敢えて切替えを行う医薬品企業も稀なことから、同社は寡占を続けている。

ニッチ戦略の事例から学べること

 箇条書きにしか列挙されなかったニッチ戦略は、質と量の2軸から考えることができた。かつては質的経営資源に優れる企業がニッチ企業と認識されてきたが、市場規模を量的にコントロールすることによっても、ニッチ戦略が成り立つことがわかった。

 本稿では10のニッチ戦略を示したが、環境が変われば、これ以外のニッチ戦略も出てくる可能性がある。質と量の2軸は、そうした時の発想の軸として利用できる。またニッチ戦略は、小さくとどまるのではなく、「止まっていると、いつかは浸食される」宿命にあり、常に技術や資源を磨いていく必要がある。ただし技術や資源を磨くベクトルとしては、技術や資源の領域を拡大するのではなく、深堀りの方が望ましい。