⑦残存ニッチ

 残存ニッチとは、製品ライフサイクルの衰退期に入り市場が縮小し、もはや利益が出なくなったため、大手企業が撤退していった結果、残った企業が限られた規模の中で、利益を追求する戦略を指す。レコードの東洋化成、レコード針のナガオカなどがあげられる。

 東洋化成は59年に創立され、現在アジア圏で唯一のレコード製造会社である。レコード全盛期には、大手レコード会社は自前のプレス工場を持ち、同社は中堅のインディーズ・レーベルなどから仕事を受けていた。同社はレコードの材料を作る会社からスタートしたため、「注文が最後の1枚になるまで続ける」という創業者の強い意志で生産を続けてきた。現在、世界でレコードのプレス工場は20数社程残っているが、同社は海外からも、2割程度の仕事を受けている。最近では、CDではカットされていた周波数22キロヘルツ以上の音が、レコードには記録されていることから、音質にこだわるオーディオ・マニアの間で、レコード・ブームが再燃し、増産基調にある。

⑧限定量ニッチ

 限定量ニッチとは、生産・供給量を意図的に絞ることでプレミアム感を出し、利益を確保する戦略である。供給量を限定しても一定の固定費がかかるので、収益的には貢献しない可能性があり、リーダー企業は同質化しにくい。ボリューム・ニッチと限定量ニッチの違いは、前者は市場規模自体が小さいケースを言うのに対して、後者は事業的には量産が可能にもかかわらず、戦略として供給量をコントロールし市場規模を小さくとどめ、利益を獲得しようとするものである。古くは老舗の菓子、日本酒など原材料の確保や職人の生産量がネックとなる分野でとられてきたが、最近は嗜好性の強いフィギュアやコインなどでも取られる。量産の効く分野でも、数量を限定することによって希少ニーズを喚起する意図もある。最近の失敗例として、JR東日本の記念スイカの例をあげてみよう。

 2014年12月に東京駅開業50周年を迎え、JR東日本は記念スイカを限定1万5千枚で発売した。しかし徹夜禁止という事前案内にもかかわらず、徹夜した人が先に買えるようになり、予想を上回る購入希望者が駅に殺到。混乱のため販売を途中で中止した。直後には、ネットオークションで、とんでもない高値がついた。後にJRは希望者全員が買える通販に改めたが、約500万枚の購入希望が寄せられ、来春まで入手を待つ人も出ることになった。また思わぬ量産により、オークションは沈静化した。このケースは、限定量ニッチ戦略を狙ったものの、限定品を公平に顧客に分配する仕組みに甘さがあったことと、限定品の転売に対して、何も手を打てなかった事例と言えよう。

⑨カスタマイズ・ニッチ

 カスタマイズ・ニッチは、完全オーダーメイドに基づく製品・サービスを提供する戦略である。銀座山形屋の注文服や、アメリカン・エキスプレス(以下アメックス)のカードがその例である。

 アメックスは、高所得者をターゲットに事業を行ってきた。同社の一般カードの年会費は、JCBのゴールドカ-ドより高い。その最上位に位置するセンチュリオン・カード(通称ブラックカード)は、過去の購買実績等を踏まえ、招待がないと会員になれない。ちなみに、入会金35万円、年会費35万円と言われており、一律の利用限度額はない。よく語られる挿話として、「ピラミッドが買いたい」という顧客の無理難題にも、「ノーと言わないサービス」で対応し、サービスの質については、完全オーダーメイドである。本来クレジトカードは規模の経済性が効き、会員が少ないとコスト高になるが、アメックスはサービスに関する数々の神話を作り出し、保有者を限定することによって、高い会費を払ってでも保有したくなる仕組みを作っている。