⑤時間ニッチ

 時間ニッチとは、限られた時間だけに事業が集中し、固定費の高い大手企業は、需要の閑散期に固定費が回収できなくなることから、なかなかその事業に参入できない戦略を指す。ドーピング検査のLSIメディエンス、棚卸代行のエイジスなどがあげられる。

 公的なスポーツ大会に欠かせないのが、ドーピング検査である。日本でこの分野で圧倒的な地位を占めているのが、LSIメディエンスである。同社は、世界アンチドーピング機構の公認を受けている日本で唯一の検査機関である。通常の年では、年間6~7千件程の検体の検査をしているが、2020年の東京五輪になれば、二週間に約1万件の検体を検査しなければならない。限られた時間にだけ需要が急増する“時間ニッチ事業”である。これに対応するため、同社では分析機器を最新機に入れ替え、人員も海外からの応援を仰ぐ予定である。これだけのピーク、オフピークを乗り切るノウハウが、同社には蓄積されている。

⑥ボリューム・ニッチ

 ボリューム・ニッチとは、リーダー企業が参入するには市場規模が小さすぎ、それ故にリーダーが参入してこない結果、ニッチ企業が利益を享受できる市場である。卓球のタマスなどがあるが、ここではハイエンド・アウトドア用品のスノ-ピークをあげてみよう。

 スノーピークは、58年創業された。この業界には、米ノースフェイス、コールマンなど大企業がおり、同社は売上高45億円と規模は小さい。また市場規模としては、ゴルフ3300億円、野球980億円に対して、キャンプは471億円と小さい。しかしハイエンド商品を中心に、「スノーピーカー」と呼ばれる熱烈なファンに愛好され、2014年には東証マザーズに上場した。86年に現社長が入社し、丈夫で風雨にも耐える理想のテント作りを行った。プロダクトアウトで作ったため、価格は16万8千円と当時の相場の10倍の値段になったが、良さを評価してくれたユーザーがおり、100張売れた。80年代後半にオートキャンプ・ブームで急成長したが、ブームの終焉と共に6期連続減収となった。そこで始めたのが「スノーピークウェイ」と呼ばれる、ファンと社長、社員が一緒にキャンプを楽しむ毎年のイベントである。

 同社の強みは「社員がユーザーであること」である。商品の多くは、社員のアイデアから出てきたプロダクトアウト型であるが、スノーピークウェイを通じて、ユーザーに使い勝手を聴いている。販売方法も、卸をはずして販売店も厳選した。正規の特約店には同社社員も派遣し、簡単な修理なら店頭でできるようにした。また前年の購入金額に応じて、ユーザーを5種類に分け、ヘビーユーザー程、受けられる恩恵を大きくした。上位のプラチナとブラック(100万円以上)のユーザーは全体の5%程だが、同社の売上の4分の1は、この5%によるものだ。ハイエンドユーザーは年間キャンプ数も多く、単に価格が高い安いではなく、長い間使っても丈夫な商品を求める傾向がある。そうしたターゲットに焦点をあてて、モノ作りを続けている。