シドニーで人質立てこもり事件が発生した時、Uberが周辺地域の運賃を上げた。この「ピーク料金」をめぐる賛否の声を考察する。市場原理では測れない、倫理・道徳という要因はどう重要なのか。


 2014年12月にオーストラリア・シドニーで起きた人質立てこもり事件の最中、配車サービス会社のUber(ウーバー)は現場付近での運賃を引き上げた。これは、たとえば暴風雨や大みそかの混雑した晩など需要が増加する時には、同社のアルゴリズムが自動的に値上げするからだ(Uberの日本語サイトでは「ピーク料金」)。この慣行は以前から非難を浴びていたが、今回は事情が少し違っていた。精神的に不安定な男がカフェで人質を取っているという状況での値上げは、即座に世間を騒がせ、いつもの非難の域を超えて道義的に問題だとされ激しい怒りを買った。

 ピーク料金とはいったい何か。同社のウェブサイトでは以下のように定義されている。

「混雑時には、より多くの車を走行させて信頼性を確保するために、Uberの料金は上がります。十分な台数の車が走行している時には、料金は通常のレベルに戻ります。ピーク料金が課される場合は、必ず大きな太文字でその旨を表示いたします。料金が通常の2倍を超える場合は、見込まれる料金をご理解いただいていることを確認するために、値上げ確認スクリーンに具体的な値上げ率を入力していただきます」

 ピーク時に料金を引き上げることで、Uberは自社の運転手に需要が高いエリアに移動するようインセンティブを与え、顧客が利用できる確率を上げている。そしてUberと運転手の売上げも増える。

 シドニーの人質立てこもり事件(銃を持った犯人と人質2名が死亡)を受け、一部の人々はUberの価格戦略に対して感情的に拒否反応を示した。なかでもブログメディアの大手ゴーカーは、Uberの空気を読まない姿勢と傍観者的無神経さを激しくこき下ろした。(Uberシドニーのツイッターのアカウントは事件勃発後、「当社はビジネス街で起きた事件を憂慮しています。より多くの運転手を向かわせ当該地域のお客様をお乗せできるよう、料金を引き上げております」とツイートし、大量の非難が寄せられた。その後同地域での無料乗車と返金を提示し謝罪。)またWIREDの記事のように、この件をUberの対外的イメージへの新たな打撃として注目する向きもあった。

 だが私がもっと興味深く思っているのは、ピーク料金というシステムを擁護する人たちの反応であり、その経済学的思考が意味するものだ。

 典型的な例をいくつか挙げよう。1つはニューヨークタイムズ紙の記者ジョッシュ・バロのツイート。もう1つはジョージ・メイソン大学の元経済学教授で、現在はスタンフォード大学フーバー研究所のリサーチ・フェローであるラッセル・ロバーツのツイートだ。ちなみにロバーツは経済学に関する人気ポッドキャストのホストも務めている。


Josh Baro@jbarro
Uberのピーク料金がひんしゅくを買う理由は、ピーク料金が課されている時には、通常のタクシーを見つけにくいからだ。それこそがピーク料金の原理なのに。
2014年12月17日4:08 AM

Russell Roberts@EconTalker
Uberを非難する人たちのなかでいったい何人が、現場近くで怯えている人たちを救助するために危険なエリアへと車を走らせるつもりだったのだろうか。答えは簡単だ。十分ではない。
2014年12月16日5:53 AM