かけ離れた分野だが問題の構造が似ている――そんな異分野の知恵はイノベーションに大いに役立つ。たとえば、安全装備が必須という共通点があるため、大工用の装備の開発に、インラインスケーターの知恵が活きる。ただし、異業種・類似分野にアイデアを求めるには方法論がある。

 

 不思議なことに思えるが、あなたの会社が抱えるイノベーションの問題に対する答えを持っているのは、舞台メークを生業としている人かもしれない。またはサッカーロボットの開発者や、採鉱用の重機を取り扱う人かもしれない。つまり、問題と無関係に見える異業種の誰かだ。

 イノベーションに関する長年の研究を通して、我々が気づいたことがある。業種は異なるが深層構造に類似性がある分野の知識が組み合わさると、大きな力が発揮されるという事実だ。舞台メークと外科感染症、在庫管理とロボットゲーム、あるいはショッピングセンターと採鉱場といった組み合わせである。

 意外な類似分野からのアイデアの採用は、画期的なイノベーションの源になりうる。何かの問題に取り組んでいる時、似た領域からのインサイトを取り入れることがソリューションの斬新性につながりやすい。その理由として、まず類似分野の専門家は当該分野と異なる知識群を活用できる。そして彼らの頭は当該分野の既存のソリューションにしばられていない。問題と類似分野の隔たりが大きければ大きいほど、ソリューションはより斬新になる。

 我々の調査によれば、このことはさまざまな状況に当てはまり、ビジネスにおいて広く適用できる手法である。

 類似分野の知識を活用する意義を理解するために、我々が最近実施した調査を考えてみよう。この調査では屋根職人、大工、そしてインラインスケーターを何百人も募集し、労働者が安全装備を邪魔だとして着用を渋る問題に対して知恵を出してもらった(英語論文)。募集方法の詳細についてはここでは触れない。ただ、今や我々は屋根ふきや大工仕事について、そしてインラインスケートのクラブや競技会について精通していると言えば十分だろう。

 我々は参加者たちに共通のインタビューを実施し、安全装備の着用が順守されていない問題を各分野に関連づける形で提示した。つまり、屋根職人の安全ベルト、大工の呼吸保護マスク、そしてスケーターの膝パッドをどのように設計し直せば、快適性と着用率が高まるかを尋ねた。解決策を数分考えてもらい、回答を集めた後、提案内容の斬新性と実用性について別の有識者たちに評価してもらった。