マイクロソフトが1月に発表したホログラフィック・コンピューティング技術、〈ホロレンズ〉(HoloLens)が注目を集めている。これまで期待だけ煽り消えていった新製品とどこが違うのか。ホログラフィック・コンピューティングの未来を『DIGITAL DISRUPTION 破壊的イノベーションの次世代戦略』の著者ジェイムズ・マキヴェイが語る。

 

 マイクロソフトは1月、ウィンドウズ10の説明会でホログラフィック・コンピューティングのエンジン〈ホロレンズ〉(HoloLens)を発表した。この時、私(HBRシニアエディター)は正直に言えばあまり関心を引かれなかった。前向きな評価をしているメディアもあるが、グーグルグラスに酷似しているように感じられたこと、そして過去に耳目を集めてきた(そして不発に終わった)数々の発表を思い出したことが理由だ(たとえば〈サーフェス〉のマルチメディア・コーヒーテーブルだ)。

 しかしフォレスター・リサーチのバイスプレジデント兼主席アナリストであるジェイムズ・マキヴェイによれば、企業幹部はホロレンズを注視すべきだという。その言葉をはじめは疑っていた私も、彼が寄せてくれた次の文を読んで自分の否定的な考えを改めた――「ホログラム技術は急速に進化し、定着しつつあります。これを無視する企業は、近いうちに間違いなく窮地に陥ることを覚悟しておくべきでしょう」

 マキヴェイは『Digital Disruption 破壊的イノベーションの次世代戦略』の著者である。以下のインタビューで私の懐疑的な質問に答え、ホロレンズがなぜ重要なのか、なぜ企業幹部が注目すべきなのかを語ってくれた。

HBR:企業幹部には、刺激的な宣伝にすぎないものをいちいち検討している時間はありません。ホロレンズに関心を寄せるべき根拠はあるのでしょうか。

マキヴェイ:あります。フォレスターが実施したテクノロジーの利用に関するアンケート調査のデータによれば、ホロレンズの早期導入候補者(アーリーアダプター)として理想的な特徴を備えている成人が、米国には720万人もいるからです。つまり、テクノロジーが好きで、マイクロソフトの家庭用ゲーム機Xboxを持ち、子どもがいて、世帯年収が10万ドル超の成人です。マイクロソフトがこのうち半数だけを引き込んでも360万人になります。別の言い方をすると、同社のジェスチャー・音声認識デバイス〈キネクト〉を発売時に購入した人の45%は、2016年までにはホロレンズを試すでしょう。

 そして2017年には――わずか2年後ですが――早期ユーザーの生み出す勢いによって、企業幹部たちはドローン、自動運転車、ロボットなどへの関心を保留してホログラム技術に注目せざるをえなくなるはずです。その頃までに顧客が自社の商品・サービスや情報と接する方法が大きく変化するのを目の当たりにしているでしょう。

 あるデジタルエージェンシー(デジタルコンテンツの制作や戦略を支援する会社)の元幹部は、マイクロソフトのイベントを見たあとで私にこう言いました。「私がいまでもブランド管理を担当していたら、いますぐ会社に戻ってこう質問するわ。『ホログラフィーについて我が社はどんな計画があるの?』と」。もちろん「答えが用意されているとは期待していない」と彼女は付け加えましたが、今後はそれでは済まないでしょう。

――ホロレンズは数年後、グーグルグラスと同じ道をたどるという人もいます。グーグルグラスはおおむね失敗と見なされましたが、何が違うのですか。

 マイクロソフトが提案しているようなホログラフィーによる交信は、オキュラスやグーグルを含め他社も目指している最終地点で、まだどこも到達していません。デジタルのビジュアル・ツールで私たちの生活を向上させる技術が最終的に行き着くのは、バーチャル・リアリティではなく、このミクスト・リアリティ(複合現実)です。重要なタスクの達成にホログラフィーの眼鏡型端末が役立つなら、それは楽しいだけではなく利便性があるということです。マイクロソフトは、ホログラフィック・コンピューティングを導入してウィンドウズ10搭載機器に発売時から組み込み、開発者やマーケター、消費者がこれまでやりたいと思っていたことを実現する新しい方法を提供するのです。