デジタルテクノロジーの進化によって、消費者/ユーザーとしての私たちの生活は一変した。しかし、企業として製品・サービスを提供する側に立ったとき、その変化にどれほど対処できているだろうか。消費者の生活が変われば、当然、マーケティングも変わる。グーグルのマーケティングチームが日本において実践する取り組みを紹介しつつ、新たな時代のマーケティングのあり方を提案する連載、第1回。

 

この15年で変わったこと、変わらないこと

 グーグルが日本でサービスを開始したのは2001年。当時の日本はディレクトリー型のサービスやポータルサイトが主流であり、検索という機能だけに特化したグーグルは、日本のユーザーにとって違和感のあるものだったことだろう。実際、グーグルが誕生した米国のように、サービス開始早々から製品、ブランドともに一挙に広まることはなかった。しかしおよそ10年経った2011年には、グーグルはブランドジャパン調査においてコンシューマーブランド部門1位となり、本年はコンシューマーブランド部門でグーグルの代表的サービスであるYouTubeが2位にランキングされた。ようやく企業としてもサービスとしても、一定のブランドを確立できつつあるのではないかと考えている。

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岩村 水樹(いわむら・みき)
Google  マネージングディレクター, APACブランド&マーケティング担当 CMO, Japan
東京大学教養学部卒業後、電通に入社、クライアント企業のマーケティング コミュニケーション戦略の策定、実施に従事した後、スタンフォード大学にて経営学修士号を取得。コンサルティング、ベンチャー経営、ラグジュリーブランド・マネジメントに携わる。 2007 年グーグル株式会社に入社し、日本およびアジアのマーケティングに携わる。経営戦略、マーケティング、ブランディングに関する著作を有する。

 2007年にグーグルに入社して以来、私は日本におけるマーケティング組織を一から築くと同時に、コンシューマー向け、ビジネス向けの両面で製品・サービスのマーケティングとブランドの確立に努めてきた。現在は、日本を含むアジアパシフィック地域全体のコンシューマーマーケティングも担当している。スマートフォンの登場によって世界に先駆けて変化するアジア市場の面白さと難しさを痛感する毎日である。

 インターネット、そしてスマートフォンの登場といったテクノロジーの進化は、ユーザーの行動を一変させた。それゆえ企業は、従来のマーケティングを見直す必要が生じている。我々グーグルも例外ではなく、日々試行錯誤しながら新たなマーケティングのあり方を模索している。一方で、グーグルは新たなマーケティングを展開する事ができる製品・サービスを通じて、市場の変化を後押しする役割も果たしている。

 当事者としてのマーケティングと、マーケティングプラットフォームのイノベーション、その両面に携わる機会は稀有なものと感じている。この連載では、チームメンバーとともに、グーグルのマーケティング担当として試行錯誤してきた経験を踏まえながら、下記の3点に関する我々の知見を紹介できればと考えている。

●Why:なぜ今CMOを始めとするビジネスリーダーにとってデジタルテクノロジーを理解することが重要なのか。デジタルテクノロジーによって生活者の行動はどのように変わりつつあるのか。

●What:デジタルテクノロジーによってマーケティングはどのように変わるのか。マーケティングの価値を最大化するために何をすべきか。

●How: 新たなマーケティングを実践するにあたり、CMOを始めとするビジネスリーダーたちはどのような組織やオペレーション上の課題に直面するか。それをどのように乗り越えればよいか。

 第1回の今回は、次回以降の各論に向けて、グーグルを含むデジタルテクノロジーの登場とそれによるマーケティングへのインパクトを俯瞰しておきたい。