ハーバード・ビジネス・レビューの最新号の特集は「小さなイノベーション」。一大決心をして大きな資源を投入して挑戦するイノベーションではなく、小さく挑戦できるイノベーションを紹介した。いま必要な「賢い」イノベーションへの取り組み方とは。

 

通りにくい提案には2つのタイプがある

 先日たまたま知り合った若いビジネスパーソンから質問を受けました。彼女はメーカーの技術部門にいて新しい提案をしたいのだが、事前に効果が具体的に説明できない案件が通しにくいというのです。こういう場合、どうすればいいのでしょうか、と言います。

 これは多くのビジネスパーソンが苦労している案件だと思います。「この施策を実施すれば、コストが20%削減できます」「顧客への対応時間がこれだけ短くなります」など、事前に効果を数字で説明できる提案は通しやすい。

 一方で通しにくい提案の種類には大きく2つあります。

 一つは、効果を数字で表現できない施策です。ブランドや企業イメージの向上への施策がその代表です。コンサートや美術展への協賛が企業のイメージをどれだけ向上させるか。本社受付のデザインを一新することで、どれだけ業績が上がるか。これらは大企業なら継続的に実施する調査などで明らかになるかもしれませんが、小さな事業単位では効果測定を定量化しづらいでしょう。

 もう一つは、前例のないことです。自社で実施したことのない新しい取り組み、業界で前例のない取り組み、世界でどの企業も試していない試み。これらはスケールの違いはありますが、どれも「前例のない」施策として、「コストが20%削減できる」案件とは、まったく異なる論理で意思決定しなければなりません。だからこそ「通しにくい提案」になります。

 前例のない、答えのない問いに意思決定を下すことこそ経営者の仕事です。とは言え、その一言で片づけてしまっては身もふたもありません。