リーダーといえば、ビジョンを掲げメンバーを引っ張るのが理想とされる。しかしイノベーションを起こす組織のリーダーはそのようなスタイルをとらないという。従来のリーダーシップの原則を覆す本が登場した。『ハーバード流逆転のリーダーシップ』という本である。
イノベーション・リーダーは自らビジョンを掲げない
イノベーションとリーダーシップは、ともにいまの時代のマネジメントで重要課題であり、さまざまな考え方や実践方法が書籍などで紹介されている。またイノベーターやリーダーの条件などについても多くの書籍が出ているが、イノベーションを起こすために必要なリーダーシップについては、これまであまり語られなかった。イノベーターがリーダーになれば、その組織がイノベーションを起こせるのか。そう単純ではなさそうだ。ではどういうリーダーが必要か。これを論じたのが『ハーバード流逆転のリーダーシップ』)である。
本書の結論は目から鱗である。
自らビジョンを掲げ、チームのメンバーを引っ張る――。これが理想的なリーダーシップのスタイルだと考えられてきし、イノベーションを起こす組織にも必要と思える。しかし、組織でイノベーションを起こすリーダーは、それらを自分の役割とは考えていないという。ビジョンを掲げるより、チームのメンバーがイノベーションに取り組める環境づくりを第一の役割と考えているのだ。
著者のひとりはハーバード・ビジネス・スクールでリーダーシップ論の主任を務めるリンダ・ヒル教授。いまやリーダーシップ論の世界的権威であり、世界的な優れた企業の経営者をくまなく研究してきたほか、非営利組織などのリーダーらも研究対象にし、多くの論文を発表してきた。本書もイノベーションを起こした組織を丹念に観察して導いた結論である。
原著のタイトルは「Collective Genius」(集合天才)。つまり天才的な人材がいなくても、組織メンバーの知恵をうまく引き出し「集団として」天才の要件を満たす仕組みをつくるという考え方である。カリスマ人材がいなくても組織として集合天才を実現できれば、画期的なイノベーションを実現できるというわけだ。
本書では、そのために組織に必要な3つの要素として、コラボレーション、発見型の学習、統合的な決定を掲げている。言い換えると、組織内で対話を活性化させ、新しい試みを試す文化と二者択一を超えた複合的な意思決定を下せる組織ということになる。