強いビジネスモデルを構築できたからといって、それだけで競争優位が築けるわけではない。第2回ではビジネスモデルを組織論の視点から考え、そのマネジメントの仕方について論じていく。

組織論の視点でみるビジネスモデルの活かし方

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平井孝志(ひらい・たかし)
早稲田大学ビジネススクール客員教授。東京大学教養学部基礎科学科第一卒。東京大学大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了。ベイン・アンド・カンパニー、デル及びスターバックスなど複数の事業会社を経て、ローランド・ベルガーに参画。米国マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院MBA。博士(学術)早稲田大学。現ローランド・ベルガー 執行役員シニアパートナー。専門分野は総合経営、経営戦略論、グローバルマーケティング、ビジネスモデル。主な著書に『本質思考』(東洋経済新報社)などがある。

 前回は、ビジネスモデル(=「儲ける仕組み」)が強いビジネスモデルであるためには、それ自体がシンプルで整合性のとれたものであるべきだということを議論してきた。

 一方、シンプルで整合性のあるビジネスモデルであれば、真似されやすいというリスクが生じてしまう。そのリスクを低減するためには、ビジネスモデルをマネジメントするという観点での議論が重要となる可能性を提示した。シンプルで整合性のとれたビジネスモデルが、組織に浸透している、あるいは浸透させるマネジメントが行われているがゆえに模倣が困難になるという論理である。つまり、ビジネスモデル自体ではなく、ビジネスモデル・マネジメントが隔離メカニズムになるという考え方だ。これは「見えざる資産」が持続的競争優位の源泉になるという論理につながるものである(注1)。

 デルにおけるビジネスモデル浸透に向けたユニークなマネジメント手法を紹介しよう(90年代後半)。デルではカスタマー・エクスペリエンスという考え方を大切にしていた。これは、顧客がPCを買おうと思った瞬間から、購入、利用、再購入にいたるまでの経験のことを指し、これをダイレクト・モデルで最大化しようという考え方である。そして、カスタマー・エクスペリエンスを左右する指標、たとえば、初期不良率やアフターサービスの品質などが、社員や管理職のボーナスに直結していた。毎年3つの重要な指標が選ばれ、それらの達成度と支給されるボーナス額との関係式が年初に提示されていたのである。

 そしてもっとも興味深い点はそのボーナスに直結する重要な指標の状況が、毎朝PCをつけるとOSが立ち上がる前に表示される仕組みがあったことである。つまり、顧客にとっての重要な指標と、自分達のボーナスが直接的に結びつけられ、さらにそれが「見える化」されていたのである。もし自分が担当する領域の指標の達成状況が悪ければ、それがみんなのボーナスを下げることになり、みんなにもその状況が日々認識されることになる。相当なプレッシャーである。おのずと組織の中には緊張感が生まれ、ビジネスモデルに対するコミットメントが高くなるのである。