新規アイデアの発見を主眼とする「探索型R&D」と、既知の画期的アイデアの応用と収益化に取り組む「深化型R&D」。これらを交互に、タイミングよく切り替えることで優れたイノベーションを持続している、シスコシステムズの事例を紹介。
企業はR&Dの支出を「減らす」ことで、知識創出を大幅に「増やす」ことができる――こう述べると、事実とあべこべだと思われるだろうか?
重要なのは、R&D支出を減らすタイミングと理由である。
シスコシステムズを例に取ろう。同社のR&D支出は2002年から2004年の間に、約15億ドル減少した。一方、我々が全米経済研究所(NBER)のデータを調べたところ、特許インパクト指数で測定したシスコの知識創出は、この期間に大幅に増加していることが判明した。
上のグラフは一見すると、R&D支出から特許出願までに約3年のタイムラグがあるだけのように思えるかもしれない。だが実際のところ、支出の減少と特許の増加は、シスコが2001年に意図的に実施した戦略シフトのまさに核心なのだ。
いったい何が起きたのか。R&D支出の減少が、なぜ特許の大量出願につながるのだろうか。
シスコがこの期間に行っていたのは、研究開発のアプローチを「探索(exploration)」から「深化(exploitation)」へとシフトすることだった。探索型R&Dでは、研究者たちは先鋭的で新しいアイデアを求めて試行錯誤するため、費用がかかり不確実性も高い。ここから生まれる特許は一般的に、件数は比較的少ないが知識の価値は高い。
他方、深化型R&Dの主眼は、企業がこれまでに発見した最良のアイデアを活用することにあり、費用が比較的かからず確実性が高い。その結果、過去の探索成果を土台とした漸進的かつ防御的な特許が大量に生まれることが多い。シスコはこのパターンに沿っていた。したがって2001年に同社の特許活動の技術分野は劇的に狭まった。