日本の労働市場に流動性が欠けているのは、各社が自社で求めるスキルを多く要求するからではないか。企業独自のスキル開発は競争優位を築く差別化ともなりうるが、それに従事する従業員の市場価値が高まらないリスクもある。
高度な専門スキルが価値を生まなくなることがある
いまから25年以上前、北海道の鉱山の採掘現場を取材したことがあります。現場には岩を削るためのドイツ製の巨大な重機が使われていました。この重機は日本には一台しかないそうで、どんな固い岩盤をも崩す力があるそうで、この重機の活用こそ他社に勝る競争優位だそうです。
そしてこの重機を操作する技術も相当なものです。まさに熟練された技術は希少でもありこの採掘現場を支えています。巨大な重機を淡々と操る作業員の方は、まさに現場のヒーロー。「プロフェッショナル」として眩しく目に焼き付きました。
あれから時代が変わりこの鉱山も閉山されました。あの特殊な重機を操る特殊なスキルを有した方はいま何をされているのか。
ビジネスパーソンのスキルには、2つに分類されます。その組織固有で評価されるスキルか、一般的にどの企業でも評価されるスキルか、です。組織固有で評価される技術には、前述の鉱山現場のような特殊なスキルだけでなく、いたるところにあります。
社内で新しいプロジェクトを開始しようとします。その場合、どの部署の誰に話しを通し、どの順番で社内のコンセンサスを得るかで同じプロジェクトであっても成否が分かれてしまうことがあります。こういう社内政治の知識がないと企業は動かせませんが、この知識は他社では評価されません。
問題は特定の企業固有で必要とされる知識が、社外の労働市場では評価されないということです。